ヒロイン視点
放課後の誰もいない生徒会室で、私は景吾くんに借りた本を読んでいたものの、あまり集中できなくて表紙を閉じた。
それから、開かない扉へと視線をやり、小さく溜息を落とす。
最近、景吾くんが女の子からの呼び出しを受けることが多くなった。
おそらく、彼女たちは卒業前に自分の気持ちにけじめをつけたいのだろう。
その気持ちを考えると、なんとも言えない気持ちになる。
だからといって、誰にもこの居場所を譲る気はないのだけれど。
(私は……不安、なのかな。)
景吾くんに想いを寄せる女の子はたくさんいるから。
だけど、景吾くんは私を好きだと言ってくれる。
大事にしてもらっていることも必要とされていることも、ちゃんと分かっている。
不安になる必要なんて少しも、ない。
熱々のミルクティーが入ったドット柄のマグカップを持ってソファーに座る。
数日前に景吾くんが持ってきてくれた薔薇のような香りのするこの紅茶は、飲みやすいのにコクがあってミルクティーにぴったりだ。
もっとも、私が紅茶に限らず甘い飲み物が好きだから余計にそう思うのだろうけれど。
何度か息を吹きかけてから湯気を立てているマグカップに口をつける。
芳醇な香りと共に熱い液体が喉を通り過ぎ、じんわりと身体の内側から温まってくる。
(景吾くんが来たら、今日はこれを淹れよう。)
ほっと息をついた私は、自然と口元が緩むのを自覚しながら、再び甘いミルクティーを口に運んだ。
「景吾くん……大丈夫?」
生徒会室に来た景吾くんはなんだか元気がないように見えて、私は頬にそっと触れた。
景吾くんは優しい人だから。
女の子たちの告白を断ることで、少なからず自分も傷付いているんじゃないかと思う。
それを聞いても景吾くんは答えてくれないだろうけれど。
「何がだ?」
「少しね、落ち込んでいるように見えたから。」
「気のせいだろ。」
「…そっか。」
やっぱり弱い部分はなかなか見せてくれないんだなと、少し淋しい気持ちになる。
「だが、お前が癒してくれるっていうなら歓迎してやるぜ。」
意外な言葉に驚きつつも、景吾くんが自分に甘えてくれるのが嬉しくて頷く。
「うん、私に出来ることなら。……きゃっ?!」
なぜか急に横抱きにされ、私は小さく悲鳴を上げた。
景吾くんはすたすたと歩いて、私を抱えたままソファーに腰を下ろす。
つまり、私は景吾くんの膝の上に横抱きで座らされている。
「あの、景吾くん…?」
戸惑いながら、すぐ近くにある景吾くんの顔を見る。
「俺を癒してくれるんだろう?」
わざとらしく口の端を持ち上げる景吾くんは分かっていないのだろうか。
それは、私にとっても癒される行為であるということに。
いや、景吾くんのことだから、きっと分かっているのだろう。
「好きだよ、景吾くん。」
景吾くんの首に両腕を回すと、景吾くんは私の額に自分の額をくっつけた。
「俺も好きだぜ。なまえ、お前だけが好きだ。」
じっと間近で見つめ合う。
頬に景吾くんの手が添えられ、そっと目蓋を下ろすと、軽い音を立てて互いの唇が触れた。
「甘いな。」
ゆっくりと唇を離した景吾くんがふっと笑う。
「さっきミルクティーを飲んだから。」
「随分と甘く作ったようなだな。」
「いつもより少しだけだよ。…景吾くんにも甘いミルクティー作ってあげようか?」
断られることは知っているのに、くすくす笑いながら言えば、景吾くんは眉を少し顰めた。
「要らねぇよ。」
「冗談だよ。ストレートで淹れるから一緒に…」
「後でな。今は少し黙れ。」
再び唇を塞がれて目を閉じれば、何度も啄ばむように口付けられる。
口付けは徐々に深くなっていき、私は景吾くんに強く抱き付く。
唇から洩れる吐息さえ奪われ、頭の芯が甘く痺れて、身体は蕩けてしまいそうだ。
「っ、……景吾、くん…」
私は息を弾ませながら、蜂蜜を溶かし込んだような色の髪に指を絡ませる。
「離せって言っても聞かねぇぞ。」
少し濡れた唇を親指の腹でなぞられて、背中がひくりと震えた。
「違うの、景吾くん……もっと…」
私は甘く熱を帯びた吐息を零しながら、自分から景吾くんに唇を寄せた。
「フッ……いくらでも。俺を、くれてやる。」
(2016.05.01)
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【ドアーズ】
水色は濃いオレンジ色で、ストレートでもミルクティーでも飲める。控えめだが芳醇な香り。渋味が少なく口当たり良く飲みやすいが、しっかりとしたコクのある味わい。一般的には、ブレンド用の原料茶やティーバック用の紅茶として使われる場合が多い。シーズンは3〜11月頃までだが、春と秋に収穫される茶葉が良質といわれる。特に、秋に収穫される茶葉は、「ローズオータムナル(バラ色の秋茶)」と呼ばれ、バラのような芳香が漂うことで人気がある。
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