ヒロイン視点
透き通った褐色をした紅茶を耐熱ガラスのティーカップに注ぐと、キャラメルを思わせるような甘い香りが漂ってきた。
景吾くんのリクエストで少し濃いめに淹れたから、自分の方にはミルクを入れておいてミルクティーにした。
トレーに二人分のティーセットを乗せ、昨日のうちに焼いたシフォンケーキと一緒に自分の部屋へと運んでいく。
昨日で中間考査が終わり、放課後に景吾くんが私の家に遊びに来ているのだ。
「久しぶりだな。お前が作ったものを食べるのは。」
生クリームが添えられたシフォンケーキを見た景吾くんが僅かに口元を緩めたのを見て、私も嬉しくなる。
「うん、やっと時間が出来たから。」
ティーセットとケーキプレートをガラス製のローテーブルに並べ、景吾くんの隣に足を崩して座る。
「行事もテストも終わって、仕事の引継ぎも順調だからな。」
「そうだね。皆、一生懸命だから。」
それはプレッシャーの裏返しでもあると思うけれど。
影響力の大きい景吾くんの後を務めるのだ、後輩たちは色々と大変だろう。
「当然だ。しっかり頑張ってもらわねぇとな。」
本当に大変だなと少し苦笑いを零して、私は小さな薔薇が散りばめられたティーカップを手に取った。
何度か息を吹きかけてから、優しい色合いのミルクティーに口を付ける。
やっぱりミルクティーで飲むとおいしいなと、もう一度ティーカップの縁に唇を寄せる。
景吾くんは傾けていたティーカップを置いて、シフォンケーキにフォークを入れた。
毎回だけれど、この時は少し緊張してしまう。
レシピをちゃんと守っているから、不味くはないと思うのだけれど…
シフォンケーキを乗せた金色のフォークを口に運ぶ景吾くんの様子を控えめに窺っていたら、呆れたように笑われてしまった。
「今日のも美味いぜ。いつも俺の舌を満足させてんだ。もっと自信持てよ。」
「あ、ありがとう。……ところで、景吾くんはテニス部の後輩の様子を見に行ったりはしないの?」
嬉しいけれど、褒められ過ぎな気もして落ち着かなくて、私は別の話題を持ち出した。
「必要ねぇな。後はあいつらに託したんだ。」
「どうしているのかなって少しも気にならないの?」
「いいや。何も心配してねぇからな。」
きっぱりと言い切って、景吾くんは再びティーカップに口を付ける。
景吾くんは後輩たちを信じているし、期待もしているのだろう。
「それに俺様は忙しい。お前に構ってやらねぇといけないからな。」
思ってもいなかった言葉に隣を向くと、景吾くんは口の片端を持ち上げて私を見ていた。
「私って、そんなに手がかかるかな?」
不安になって聞けば、景吾くんは片手で私の頭をくしゃっと撫でた。
「バーカ。逆だ、逆。お前は我侭を言わないからつまらねぇ位だ。」
「そういうもの、なの…?」
普通は我侭を言われたら面倒なだけなんじゃないだろうか。
「そうだ。だから、たまには我侭を言え。俺が全て叶えてやる。」
本当に何でも叶えてくれるのだろう、景吾くんなら。
だけど、こうして一緒にいられることで、私の望みは満たされている。
「我侭というか…私、景吾くんには甘えさせもらっているよ。それに、普段からすごく甘やかされているよね。」
「それはお前が自分から甘えてこないからだ。」
ぐいっと肩を抱き寄せられ、身体の片側がぴったりと景吾くんにくっつく。
私は身体の力を抜いて景吾くんに寄り掛かった。
「景吾くんにしてみたら物足りないのかもしれないけど、私は十分に幸せだよ。」
肩に回っていない方の景吾くんの手を握って、その蒼い瞳に微笑みかける。
そして、私は首を伸ばして景吾くんの頬に自分の唇をそっと押し当てた。
「いつも私を幸せにしてくれて、ありがとう。」
(2015.11.01)
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【サバラガムワ】
水色は透き通った茶色。キャラメルや蜂蜜を思わせる特徴のある香り。コクがあり、渋みは少ない。日本ではなじみが少ないが、特にアラブ諸国で人気が高く、チャイとして飲まれている。ミルクティーでの美味しさが際立つが、ストレートでも美味しく飲める。
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