跡部視点
「チェックメイト。」
かなり考えてからガラスの駒を動かした彼女は、数回目を瞬かせてから小さく息を吐いた。
「また負けちゃった。」
「未だに一回も俺に勝てねぇのな。」
俺は余裕の笑みを浮かべながら、ゆっくりと足を組み替える。
「今日は結構いい勝負だったのに。」
向かいのソファーに座っている彼女は、難しい顔でガラス製のチェス盤の上に並ぶクリアとフロスト二種類の駒を見る。
「途中まではな。だが、詰めが甘過ぎる。」
そう言ってやり、彼女が作ってきたバターの風味が香るショートブレッドを一つ摘む。
「そうですね。王様には敵いません。」
降参だとでもいうように溜息を吐いた彼女は、ティーカップに残っている澄んだ紅色に口をつける。
「それで、約束は覚えているよな?」
「もちろん覚えているけど…」
空になったティーカップを置いた彼女に問えば、警戒しているようで、窺うような視線を送ってきた。
今日はゲームを始める前に、勝者は敗者に何でも一つだけ命令する事が出来る、という在り来たりな賭けをしたからだ。
「取り敢えず……こっちに来い、なまえ。」
「…うん。」
おずおずとだが素直に近付いてきた彼女の腕を引き、自分の膝の上に座らせる。
「さて、どうしてやろうか。」
わざとらしく彼女を見つめる目を細めて口の端を持ち上げる。
ゆっくりと頬を撫でると、腕の中に収まっている彼女が落ち着かなそうに身体を動かした。
「け、景吾くん……あの、お手柔らかに…」
「さあな?」
頬を辿った指先で顎を捕らえ、彼女に顔を寄せる。
言われずとも大人しく目を閉じた彼女に唇を重ねる。
何度も角度を変えて甘い唇を啄ばんでいると、彼女は俺の首に腕を絡ませてきた。
全く可愛いものだと、唇を合わせたまま声を出さずに笑う。
「決めたぜ、なまえ。」
唇を離して告げると、彼女は不安げに俺の顔を見た。
「今度の連休、俺の所に泊まりに来い。」
「…お泊まり?」
「あまり夜遅くには帰せねぇから、いつも夕食の後はゆっくり過ごせないだろ。」
熱を残している頬に触れれば、彼女は柔らかく笑んだ。
「ありがとう、景吾くん。」
「別にお前の為じゃねぇぜ。勝者の権利を行使したまでだ。」
「うん。でも、私が嬉しいから「ありがとう」なんだよ。」
彼女が軽く唇を重ねてきたが、それだけで満足出来る筈も無い。
俺は彼女の髪に指を差し込んで顔を引き寄せ、先程よりも深く口付ける。
華奢な背中を片手で抱き締めながら、彼女の為に部屋を用意しようと考える。
彼女の気に入っている庭がよく見える部屋を、彼女の好みに合うように模様替えしようか。
以前、猫脚の白いテーブルを可愛いと言っていた彼女に、それならばと猫脚の家具を一式プレゼントしようとしたら頑なに断られたが、これなら大丈夫だろう。
何も知らない彼女が喜ぶのを想像し、俺は口付けを続けながら吐息だけで笑った。
(2014.10.04)
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【雲南】
日本では「雲南紅茶」「雲南茶」などとも呼ばれる。別名は「テン茶」「テン紅」(「テン」は、さんずい+眞「シ眞」)など。水色は透明感のある澄んだ紅色(もしくは鮮やかなオレンジ色?)。ゴールデンティップを豊富に含むのが特徴であり、多いほど良いものとされ、美しいゴールデンリングがあらわれる。茶葉の見た目も美しく、「金色に輝く紅茶」と呼ばれている。完熟した果実のような甘く優雅な香り。非常にまろやかで柔らかな口当たりで、まったりとしたコクがある。渋みが殆どなく、しっとりとした甘みがある。原産国の中国ではストレートで飲まれる事が多く、外国ではミルクや砂糖を加えて飲まれる事が多い。収穫の時期は3〜11月で、クオリティーシーズンは3〜4月。海外ではキーマンに次いで人気が高く、殆どがヨーロッパへ輸出される為、日本国内では上質な茶葉ほど入手は困難。
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