ヒロイン視点
今日は学校帰りに景吾くんの家に寄らせてもらっている。
たまには学校ではなく自宅でゆっくりティータイムを楽しもうと誘われたのだ。
そして私は…
芳醇で香ばしい香りのする綺麗な濃い紅色の紅茶に口をつけた後、目の前のケーキを見つめながら葛藤していた。
白いプレートの上に鎮座しているマロンケーキはとてもおいしそうだ。
マロンのムースと生クリームが包まれているというクレープ生地の上には金粉がかかったつやつやのマロングラッセが乗っている。
いつものように景吾くんの家のパティシエさんが作ったものだから、きっとおいしいに決まっている。
「どうしたんだ、なまえ。食べねぇのか?」
ケーキを見つめるだけでフォークを取らない私に、ティーカップを置いた景吾くんが声をかけてきた。
「えっと、その……あんまり、おなかが空いてないような…」
「もしかして、最近少し肉付きが良くなったのを気にしてんのか?」
「わ、分かるの?! 1kgしか増えてないのに…っ」
勢いよく隣の景吾くんの方を向けば、小さく溜息をつかれた。
「そんな気にする程じゃねぇだろ。たがか1kgくらいで。」
「すごく気にするよ! しかも、見た目でも太ったって分かるなんて…っ!」
ものすごい危機感に襲われていると、なぜか私は景吾くんの膝の上に乗せられてしまった。
しかも、向かい合って景吾くんの太腿に跨っている体勢だ。
「景吾くん、あの…?」
「俺は今くらいが好きだぜ。抱き心地が良いからな。」
骨ばった手が戸惑っている私の頬を撫で上げ、形の良い唇が薄く笑みを刻む。
「っ、……抱き心地って…」
頬の熱が上がるのを感じていたら、片腕で腰を引き寄せられて、景吾くんの胸に抱き込まれた。
「だから気にするな。」
上を向かされて、頬に軽く唇が押し当てられる。
「そうもいかないよ。増えた分だけは痩せないと。」
甘やかすような言葉につい流されそうになったけれど、油断しては絶対にダメだ。
「女ってのは面倒だな。…そうだな、そんなに言うなら俺が協力してやるよ。」
急にニヤリと笑った景吾くんはなんだか楽しそうで、ちょっと身構えてしまう。
「協力って…?」
「簡単な事だ。運動すればいい。」
貸してもらったジャージに着替えて、広い庭にあるテニスコートで私はテニスを教えてもらっていた。
「けっ、ご、…くん……も、無理…っ」
ボールを追いかけきれず、その場に座り込んでしまう。
「もう限界か。体力ねぇな。」
こっちのコートに入ってきた景吾くんは、私の近くに転がっているボールをラケットで器用に掬い上げた。
「大丈夫か?」
「う、ん……ありがとう。」
差し出された手に掴まって立ち上がり、コートの横にあるベンチへと移動する。
用意されていたスポーツドリンクを飲み、ほっと息をつく。
景吾くんはタオルで汗を拭いているけど、息は少しも乱れていない。
「ねぇ、景吾くん。また相手をしてもらっていいかな?」
「もちろん構わねぇぜ。テニスは楽しかったか?」
「うん、すごく楽しかったよ。」
少しだけど景吾くんが夢中になっているものに触れられて、私はとても嬉しかった。
「次はもっと頑張って、ちゃんとラリーが続けられるようになりたいな。」
「そうだな。3回に1回空振りしているようじゃ話にならねぇ。」
「ちょっと言い過ぎだよ、景吾くん。5回に1回くらい、だよ。」
そこまで酷くなかったはずだと、控えめに主張してみる。
「大して変わらねぇだろ。…ま、やる気があるのならいくらでも教えてやるさ。」
軽く流されてしまったけれど、次の機会にはもっと頑張りたい。
「うん、お願いします。……でも、下手な私が相手だと、景吾くんはつまらなくない?」
「そんな事ねぇよ。俺も楽しめたぜ。だが、コーチ代は貰わねぇとな。」
「自分から言い出したのに。」
どんな要求をするつもりなのだろうと、隣の景吾くんに警戒した視線を向ける。
「俺様は高いんだ。目、閉じろよ。」
くっと顎を掴まれたことで、そういうことなのだと理解して、口許に笑みが浮かぶ。
景吾くんの端正な顔が近付いてきて、私は大人しく目を閉じた。
少し冷たい風が頬を撫でるのを感じた後、温かな唇が私の唇にそっと触れた。
(2013.12.07)
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【ラトナピュラ】
水色は濃く澄んだ紅色。芳醇で香ばしい香りで、チョコレートを思わせる甘い風味。濃厚で豊富なコクを持ち、渋みが弱くてまろやかな口当たり。
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