君といると心が休まる | ナノ
ヒロイン視点


「何を見てんだ?」

「きゃっ?!」

耳元に落とされた声に驚いて振り向けば、景吾くんが私の座っているソファーの後ろに立っていた。

そんなに集中していたつもりはないのだけれど、景吾くんが生徒会室に入ってきたことに気付かなかった。

「昨日買ったアレンジティーの本だよ。今度、どれか作ってみようかなって。」

「お前の事だ、甘いやつを作るんだろ?」

開いているページの写真を見て、景吾くんがフッと小さく笑う。

バカにしている訳じゃないのは分かるけれど、子供だと言われているような気はする。

「取り敢えず、俺には普通のものを淹れてくれ。」



「はい、どうぞ。頂き物のバウムクーヘンもあるから、良かったら食べてね。」

「ああ、ありがとうな。」

ティーカップとバウムクーヘンが乗ったお皿をテーブルの上に並べて、景吾くんの隣に座る。

この前はミルクティーにしたけど、今日はストレートで淹れた(当て擦りではない)。

白地に金縁のティーカップの中では、輝くような赤色が芳醇な香りを放っている。

この紅茶はアレンジティーにも向いているらしい。

だけど、跡部くんが持って来た上等なものだから、そういう飲み方をするのはもったいないように思う。

すっきりと口当たりの良い味を楽しみながら、アレンジティー用の茶葉を買ったほうがいいかな、と考える。

「ねぇ、景吾くん、今日は時間があるんだよね?」

私は景吾くんがティーカップから口を離したところで話しかけた。

「ああ。どこか行きたい所でもあるなら連れてってやるぜ?」

「ううん、そうじゃなくてね…」



すらりと長い指が白と黒の鍵盤の上を流れるように滑る。

繊細な指の動きから紡がれる旋律に、耳を傾けながら静かに目を閉じる。

今、音楽室で景吾くんに弾いてもらっているのは、これまで聴かせてもらった中で私が一番好きな曲だ。

ピアノの美しい響きに優しく心と身体が包まれる、私にとって至福の時間――



余韻が消え、私は閉じていた目をゆっくりと開けた。

鍵盤の蓋を静かに閉めた景吾くんは椅子に座ったまま私のほうに身体を向けた。

「満足したか?」

「うん、とっても。ありがとう、景吾くん。」

「礼なら、言葉だけでなく行動でも示して欲しいものだな。」

景吾くんの蒼い双眸がスッと細められ、口の端がゆるりと持ち上げられる。

「こっちに来い、なまえ。」

ピアノに一番近い席に座っていた私は、誘われるままに立ち上がって景吾くんに近付いていく。

目の前に立つと、景吾くんの両腕が私の腰に絡んだ。

景吾くんはイスに座ったままだから、ちょうど胸の辺りに景吾くんの顔があって、無性に恥ずかしくなる。

「あ、あの…っ」

「全部言わねぇと分からないのかよ?」

私に拒否権なんてあるはずもなく、覚悟を決めて目をぎゅうっと瞑る。

息を止めて、一瞬だけ、控えめに自分の唇を景吾くんの唇に押し付けた。

そっと目を開ければ、不満そうな顔の景吾くんと目が合った。

「俺の演奏は随分と安いらしいな。大体、お前が強請ってきたってのによ。…なあ、なまえ?」

景吾くんは私を放してくれず、片手で背中から腰へのラインを緩く撫でる。

「……目、閉じてくれる?」

「仕方ねぇな。」

渋々といった感じで目を閉じた景吾くんの頬に緊張しながら両手を添える。

ゆっくりと顔を近付けていき、さっきよりもしっかりと唇を重ねる。

角度を変えて触れるだけの口付けを繰り返してから、今度は景吾くんの唇を自分の唇で挟んで喰むように動かす。

景吾くんが普段してくれるのを思い出して、上唇そして下唇を優しく吸う。

ぎごちなく口付けを続けるけれど、時折洩れるのは自分の熱くなった吐息だけで、それが恥ずかしくて仕方ない。

もう限界だと、唇を離して震える目蓋を開けた。

「お前にしては上出来か。」

するりと私の頬を撫でた景吾くんは目の縁にうっすらと滲んでいる涙を指先で拭った。

景吾くんは片腕を私の腰に回したままで、イスを後ろに追いやりながら立ち上がる。

戸惑いながら景吾くんを見上げると、くいっと顎を掴まれ、優しく唇を塞がれた。

私は甘い溜息を洩らしながら、景吾くんの背中に手を回して目を閉じた。


(2013.07.27)
 

【キャンディ/キャンディー】
水色は透明感あふれる輝くような紅色。クセが無く、すっきりと濃い味わい味であるため、ストレートティー・ミルクティー・アイスティーとあらゆる飲み方ができる。また、アレンジティーやブレンドにも向いている。1年間を通して収穫され、品質は安定している。

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