君といると心が休まる | ナノ
ヒロイン視点


夏休みに入ったけれど、生徒会の仕事があるため、私を含めて生徒会の役員は必要に応じて学校に来ている。

今日の作業は終わって他の皆はもう帰ったけれど、私は一人で生徒会室に残っていた。

少し疲れているように見えた景吾くんのことが気になるからだ。

だけど、ここで私が気を揉んでいたところで意味はない。

「何してるんだろうな、私。」

私は他に誰もいない生徒会室で深い溜息をついて、座っていたソファーにぱたんと横になった。

窓からは強い陽射しが射し込み、室内の埃がきらきらと輝きながら舞っている。



(あれ、いつの間に…?)

ソファーに横になった私は、そのまま眠ってしまっていたらしい。

生徒会の仕事や課題に追われていて、自分も少し疲れていたみたいだなと、まだ眠い目を手の甲で擦る。

「全く、薄情な恋人だな。」

大きくはない筈なのにやけに響いて聞こえた声に、私は慌てて身体を起こして入口のほうを見た。

そこには扉を背に腕組みをした景吾くんがジャージ姿で立っていた。

「どうして、ここに…?」

驚いている私のほうへと景吾くんが歩み寄ってくる。

「練習中に窓からお前の姿が見えた。残っていたなら、たまにはテニスコートに俺を見に来いよ。」

「ごめんなさい。邪魔になっちゃうかと思って…」

苦笑いで答えるけれど、本当の理由は違う。

テニスは景吾くんにとってすごく大事なものだから、自分がその特別な領域に踏み込むのは躊躇われるのだ。

「お前が邪魔な訳ねぇだろ。変な気を遣うな。」

「…うん。……そうだ、喉は渇いてない? アイスティーでも作ろうか?」

「そうだな、頼む。」



身体を動かした後の景吾くんにはあっさりしたものが良いかと思い、繊細な香りで優しい味わいの茶葉を選んだ。

淹れた紅茶は、淡いけれど透明感があって綺麗なオレンジ色をしている。

トレーに乗せて運んできたアイスティーをソファーの前のテーブルに置いた私は景吾くんの隣に座った。

ストローをグラスに挿して軽く混ぜれば、氷が涼しげな音を立てる。

「明日は全国大会の抽選会だね。」

「ああ。」

自分から話を振ったものの、言葉に詰まってしまい、沈黙が落ちる。

あれだけの努力をしている人に、全力を尽くすに決まっている人に、「頑張って」と簡単に言っていいものだろうか。

「無駄に難しく考えてんじゃねぇよ。」

頬に添えられた手に景吾くんのほうを向かされ、顔を覗き込まれる。

「なまえ、お前は俺の…俺達の勝利を信じていればいい。」

何よりも強い輝きを放つ瞳には、揺るぎない意志と誇り高い精神が宿っているように見える。

「うん、信じてるよ。必ず勝つって信じてる。」

景吾くんの蒼い瞳を見つめ返し、心からの言葉を口にする。

「それでいい。」

満足そうな笑みを口元に刻んだ景吾くんは手の平で私の頬を撫でた。

「試合、応援に行くから。いっぱい応援する。」

「お前には一番良い席を用意してやるよ。」

「ありがとう、景吾くん。」

景吾くんに笑顔を返して、私は表面に水滴のついたグラスを取ってストローを咥えた。

冷たいアイスティーが喉を流れていく。

「なまえ、この後は少し俺に付き合え。時間はあるんだろ?」

「うん、大丈夫だよ。」

疲れているだろうから「休まなくていいの?」と言おうとしたけれど、すぐに考え直して頷いた。

きっと、私と同じように、景吾くんも一緒の時間を過ごすことを望んでくれているんじゃないかなと思う。

特別なことは出来ないけれど、私が一緒にいることで少しでも景吾くんの気持ちを和らげられたらいい。


(2012.10.17)
 

【シャングリラ】
水色は淡く澄んだオレンジ色。ストレートティーに向くほか、アイスティーにも最適。ダージリンに似ているが、ダージリンよりも繊細な香りで、渋みが少なくて優しい味わい。ダージリンと同じくクオリティーシーズンが三つあり、セカンドフラッシュには花のような甘い香りがある。生産量が非常に少なく、珍しい紅茶。

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