3万打感謝企画 | ナノ


※社会人設定


深呼吸を一つしてから、玄関のチャイムを押す。

「はーい。…蓮二?」

「ああ、俺だ。」

インターホンからの彼女に声に答えると、すぐにドアが開いて温かな笑顔に迎えられた。

それだけで、残業で感じていた疲れが軽くなる気がした。

「お疲れさま、蓮二。どうぞ上がって。」

「ああ、邪魔する。」

「適当に座って待っててね。後少しでお魚が焼けたらご飯にするから。」

「何か手伝うことは無いか?」

ネクタイを緩めながら、キッチンに立っている彼女の背中に声を掛ける。

「大丈夫だよ。ゆっくりしてて。」

「そうか。…悪いな。」

彼女の言葉に素直に甘えることにして、ソファーに腰を下ろす。

ガラス製のテーブルの上に用意されている料理は普段よりも品数が多い。

彼女のほうは会社が休みだったから随分と張り切ったらしい。



「今日は焦げていないようだな。」

彼女の後ろから、いい色に焼き上がった鰺が盛り付けられた皿を覗き込んだ。

「蓮二っ この間はたまたま、だからね。」

「フッ…分かったから、そう膨れるな。」

小さく笑い、可愛らしく膨れた頬に軽く口付けると、彼女は眉を寄せてしまった。

「すぐそれで誤魔化すんだから。」

俺を見上げて抗議する彼女を見て口元を緩めれば、ますます睨まれてしまう。

「お前の機嫌が直すには一番の方法だからな。」

「私、そんなに単純じゃ…んっ……」

反論する口を柔らかく塞ぎ、角度を変えて幾度も啄ばむように口付ける。

少ししてから、彼女の手が俺の背中に回った。

「……なまえ。」

名残惜しい気持ちを抑えて唇を離し、ほんのり染まった彼女の頬を撫でる。

「折角の料理が冷めてしまうな。」

「…誰のせいよ?」

「俺の所為、だな。お前に触れたかったんだ。」

「っ、…そんなの……私だって…」

彼女は俺の腰に腕を回して強く抱き付いてきて、服越しに伝わってくる温もりに、本当に離れ難くなってしまう。

「お互いに忙しいからな。」

俺の胸に顔を埋めている彼女の頭を撫でてから、そっと肩を掴んで離す。

「うん。…仕方ない、よね。」

寂しそうな表情を浮かべる彼女を見て、罪悪感を覚えながらも少し安心している自分がいた。



彼女の手料理を堪能した後、俺は食器を洗い終えてから二人分の煎茶を淹れた。

「ありがとう。蓮二が淹れたお茶っておいしいんだよね。」

湯飲みをテーブルに置き、ソファーに座っている彼女の隣に腰を下ろす。

「温度と時間を守れば、誰が淹れても同じだろう。」

「そういう事だけじゃないと思うけど?」

彼女は淡く微笑んで、湯気の立っている湯飲みを傾けた。

「そうかもしれないな。」

自分もお茶を一口だけ飲み、湯飲みをテーブルの上に戻すと、彼女が俺の肩に頭を預けてきた。

彼女の髪を撫でながら、ソファーのクッションの後ろに隠して置いていた純白のケースの箱を開ける。

「蓮二?」

髪を撫でていた手で彼女の左手を取ると、不思議そうに顔を覗き込まれる。

俺は緊張しているのを隠して彼女に微笑みかけ、ケースから取り出した銀色のリングを彼女の薬指に嵌めた。

蛍光灯の光を複雑に反射したダイヤモンドがリングの中央で輝く。

「蓮二……これ…」

「なまえ、俺と結婚して欲しい。」

彼女の左手を引き寄せ、その手の平に唇を落とす。

「っ、…もちろん!」

顔を上げた途端、勢いよく抱き付いてきた彼女を受け止める。

「…良かった。」

彼女の背中を撫でながら、安堵の溜息を洩らす。

「もしかして、蓮二…私が断るかもしれない、って思ってたの?」

「お前が受けてくれる可能性はかなり高かった。だが、100%という予想は出来なかった。」

「私の気持ち、蓮二には伝わってないんだ?」

少し拗ねたような表情をした彼女が俺の首に腕を回して至近距離で顔を覗き込んでくる。

「愛してる。蓮二を愛してるよ。」

初めて形にされた言葉に、心が震える。

曇りの無い瞳が閉じた目蓋に隠され、静かに触れた柔らかな唇。

頬に影を落とす睫毛が微かに震えている。

小さく喰むように唇を動かす彼女の色付いた頬に触れると、ゆっくりと唇が離れた。

「これで伝わった?」

再び俺を映した瞳が僅かに揺れ、彼女の手が俺の頬に触れる。

その手を上から包み込む。

「ああ、ちゃんと伝わった。そして、俺も…なまえ、お前を愛している。」

これ以上は言葉にならない感情が伝わるように、今度は自分から彼女に唇を重ねた。



あなたはきっと幸せになるでしょう

(2011.04.22)

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