3万打感謝企画 | ナノ


※忍足視点


「みょうじ、ほんまに帰らんでええの?」

「大丈夫だって。今朝も言ったけど、全っ然元気だから。」

部活の準備をしている彼女に声をかければ、予想通りの答えが返ってきた。

「せやかてなぁ…」

今朝、珍しく朝練に遅れてきた彼女はあまり顔色が優れず、今も万全の体調という風には見えない。

だが、周りが休めと言ったところで、大丈夫だと言い張って無理をするのが彼女だ。

「おい、なまえ! ちょっと来い。」

どうしたものかと考えているところで、彼女を呼ぶ声が飛んできた。

「なにー?」

俺の横を通り過ぎた彼女の背中を視線で追えば、その先にいる跡部と目が合った。

何か言葉を交わした後、彼女は少し不満そうにしながら部室の方へと歩いていった。

「跡部、みょうじに何言うたん?」

「週末の練習試合の相手校のデータ整理を頼んだ。」

テニスコートの方に来た跡部の答えに、すぐにその意図を理解した。

「へぇ…そない大層な相手やなかった気ぃするけどなぁ。」

「準レギュラーの奴らを使うからな。」

「みょうじが心配でしゃーないもんなぁ?」

「は? 何を言ってやがる。」

「準レギュラーに任すんなら、データ整理も1年か2年のマネでええやん。」

わざわざ指摘してやれば、跡部は苦虫を噛み潰したような顔をした。

(みょうじんことになると、ダメダメやんなぁ。)

「余計な事、言うんじゃねぇぞ。」

低い声で言った跡部に少し笑いながら「分かった」と返せば、きつく睨まれた。



部活が終わって部室に戻ると、パソコンを前にして彼女が机に突っ伏していた。

「みょうじ、起きな跡部に怒られるで?」

彼女に声をかけながら、その肩にかけられている制服のブレザーが目に入った。

それが誰のものであるかは、考えなくても分かる気がした。

「……っは! ね、寝てた?!」

ガバッと身体を起こした彼女に苦笑いを零す。

「おはようさん。」

「うん、おはよう。…って、そうじゃない! どうしよう、終わってない…っ」

彼女が焦っていると、タイミングが良いのか悪いのか、跡部が入ってきた。

「なんだ、まだ終わってねぇのか。」

「跡部、ごめん。残って終わらせるから。」

「残りは明日でいい。それより、送ってやるから帰る準備して来い。」

「へ? 何で?」

「打ち合わせることがある。さっさとしろ。」

「う、うん。分かった。」

彼女が頷いたのを確認すると、跡部はロッカールームへと消えていった。

「なにか急ぎの件、あったかな?」

跡部の気遣いを全く分かっていないらしく、彼女はパソコンの電源を落としながら首を傾げている。

「跡部の奴、素直やないからなぁ。」

「なにが?」

「誰かさんが具合悪いのに無理しよるから、心配してんねや。…あれでも。」

「……もしかしなくても、私のこと?」

「他に誰がおるん?」

「えっと……でも…」

「その肩にかかっとるブレザー、跡部のやと思うで? 多分、部活の合間に様子見に来たんやろ。」

「ブレザーって……これ、跡部がわざわざ?」

今気付いたらしく、彼女はブレザーを不思議そうに見ている。

「気になるんやったら、帰りに聞いてみたらええと思うで? …まあ、その前に今日の事を怒られるやろうけどな。」

あまり分かっていない様子の彼女に、「まあ、頑張りや」と付け足し、自分もロッカールームに向かった。



「忍足、何を話してやがった?」

ロッカールームに入るなり、制服に着替え終わってソファーに足を組んで座った跡部に鋭い視線を投げか掛けられた。

「ただの雑談やけど?」

俺が軽く肩を竦めてみせると、跡部は思いっきり舌打ちをしてから立ち上がってロッカールームを出て行った。

少し乱暴に閉められたドアを見ていると、入れ替わりに岳人が入ってきた。

「侑士、何かあったのか? 跡部の奴、すげー機嫌悪かったぞ。」

「さあなぁ?」

「…明日、練習メニュー増やされても知らねぇぞ?」

ロッカーを開け、着替え始めた俺の隣に並んだ岳人が呆れたように言う。

「それは勘弁して欲しいわ。っちゅーか、むしろ感謝してもろてもええと思うんやけど。」

「感謝? 何の話だよ?」

「少しはあの二人も進展するかもしれんって話や。」

「え…マジで?」

「だとええなって、希望やけど。」

「どっちだよ! つか、跡部の奴さ、もっと普通に優しくしてやればいいのにな。」

「せやなぁ…けど、大事やから、どうしていいか分からんちゃう?」

あれで案外、不器用な所があると思う。

照れ隠しなのか、余計な憎まれ口を叩いたりするから、彼女に伝わらないのだ。

「そんなもんか? 跡部の考える事って分かんね。」

気持ちをそのまま口にする岳人を見ながら、跡部も少しは素直になればいいのにと思った。



細やかな愛情

(2011.04.08)

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