5万打感謝企画 | ナノ


【宍戸side】

「何、やってんだ…お前ら?」

放課後、なまえに借りて返し忘れていた英語の教科書を届けに生徒会室に来た俺は、目の当たりにした光景に固まった。

パソコンの前に座っているなまえの後ろから跡部が覆い被さるような体勢になって耳元に顔を寄せていた。

「アーン? 邪魔してんじゃねぇよ、宍戸。」

視線だけを俺に向けた跡部は不機嫌を隠そうともしない。

「跡部、なまえから離れろよ!」

「何で俺様がテメェの指図を受けなきゃならねぇんだよ。」

怒鳴った俺を睨み返した跡部が、これ見よがしになまえの肩に腕を回す。

「跡部、暑いし鬱陶しい。」

それまで黙っていたなまえは嫌そうに眉を寄せながら跡部の手を叩いた。

「照れることはないだろ、なまえ。」

跡部は動じることもなく、なまえを後ろから抱き締める。

「離れろっつってんだろ!」

跡部に対しては勿論だが、本気で嫌がっていない様子のなまえにも腹が立った俺は、二人の間に割って入った。



「なぁ、お前と跡部って…」

跡部が居なくなった生徒会室で、なまえの向かいの席に座った俺はさっきのことを聞かずにはいられなかった。

「跡部とは何もないよ。あれは跡部が勝手に絡んでくるだけで、私は何とも思ってないんだから。」

気まずいのか、なまえはパソコンの画面に視線を向けたままだ。

でも、手は動いていない。

「なら、男に簡単に触らせるなよ。危機感足りねぇだろ、さっきのは。」

「だって、跡部だよ? 言ってもあんまり意味ないんだもん。それに…もう慣れちゃったし。」

小さく溜息をつくなまえに、先程の苛立ちが蘇ってくる。

「そういうことじゃねぇだろ?!」

「…なんで亮が怒るの?」

「そんなの…っ!」

勢いで思わず言いそうになった言葉をギリギリで飲み込み、俺はなまえから視線を逸らせた。

「……幼馴染だから心配してんだよ。それだけだ。」

「ふーん…」

「なんだよ?」

なぜか明らかに不満そうな声に、なまえへと視線を戻す。

「幼馴染だからっていちいち心配してくれなくていいよ。何もないんだから。」

なぜかなまえは拗ねたような顔をしていて、その意味が俺には分からなかった。

「お前、もしかして跡部のこと…」

「誰がっ 違うって言ってるでしょ!」

素直じゃないなまえのことだから、あり得ると思って聞いてみれば、思いっきり否定された。

「なら、いいんだけどよ。」

「どうせ、私が誰を好きでも亮には関係ないでしょ。」

「関係なくねーよ!」

「……え?」

少し驚いたようななまえと目が合って、ハッと我に返る。

「何でもねぇ。俺、部活行くから。じゃあな。」

なまえは何か言いたげな目で俺を見ていたけど、それには気付かないフリをした。



部室に入り、ロッカールームに行くと、ユニフォームに着替えた跡部がソファーに座っていた。

瞬間、先程の光景が頭を過ぎり、焦燥感に胸がざわつく。

「お前、なまえにちょっかい出すなよ。」

俺が睨みながら言えば、跡部は鼻で笑った。

「アイツを口説くのに幼馴染の許可が必要なのかよ? 大体、関係が壊れるのを恐れて踏み出せない臆病者の言うことを俺が聞く訳ねぇだろうが。」

「テメッ…」

「違うって言えるのかよ?」

余裕そうな表情を崩さない跡部に対し、俺は核心を突かれて動揺していた。

だが、譲れる訳がない。

「それは否定しねぇ。…けど、」

跡部を正面から跡部を見据えた。

「これからは違うぜ。なまえはお前には渡さねぇ。」

「ハッ 望むところだぜ。」

跡部はいつもの自信満々な笑みを浮かべると、ロッカールームを後にした。



【ヒロインside】

「亮のバーカ。」

閉められたドアを見ながら悪態を吐く。

やきもちを妬いていたみたいだから少し期待したのに、幼馴染みだからと言われた。

そのくせ最後にまた期待させるような言葉を残して行くなんてタチが悪い。

しかも、いつもはハッキリと物を言うくせに、中途半端にしていなくなるなんて。

(ちゃんと言ってよね。)

だけど、私も亮のことは言えない。

踏み込むことを躊躇って、本当のことが聞けなかった。

(このままじゃ…何も変わらないよね。)

それは分かっている。

いい加減、私は素直になるべきなんだと思う。

この先も亮の隣にいたいのなら、私は――



前進あるのみ
(2011.06.04)
 


 汐さん、リクエストありがとうございます!
宍戸さんとヒロインが「これからは積極的にいこう!」と決心したところで終わりましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 『両片想い』ということでしたので、ヒロインの目の前で宍戸さんと跡部さんのやり取りをさせる訳にいかないかなと考えた結果、ヒロインと宍戸さんのシーンが少なくなってしまいました。そして、ヒロインの気持ちが上手く表せなかったので、短いですがヒロイン視点のシーンを入れて補わせて頂きました。ヒロインは、宍戸さんと跡部さんの好みのタイプを考慮して、少し気が強そうな感じにさせて頂きました。
 宍戸さんもヒロインもあまり素直じゃない上に恋愛には鈍そうなので、両想いになるまで時間がかかりそうな気がします。ちなみに、跡部さんは二人の気持ちには気付いています。でも、まだ自分が入り込む隙があるので、引くつもりはないという感じです。
 気に入らなかった場合は書き直しますので、遠慮なくおっしゃって下さいね。


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