5万打感謝企画 | ナノ


放課後の図書館、私はすっかり定位置になっている席に座った。

たくさんの女の子が黄色い声を上げている中には混じれそうになく、私はここから窓の外を眺める。

あまり人の来ないこの場所からはテニスコートがよく見えるから。

そして、探すまでもなく、その姿は目に飛び込んでくる。

だけど、遠い。

そう思うのは、この物理的な距離のことじゃない。

彼とは1年生の時は同じクラスで、最初の席替えで隣同士になったことがきっかけで、けっこう仲が良いほうだった。

あの頃は、どうでもいいような話題で盛り上がっては笑い合っていた。

だけど、2年生になってクラスが別々になってしまうと、話す機会はほとんどなくなってしまった。

それでも、廊下ですれ違うと挨拶をして一言二言を交わすくらいの交流はあった。

それが3年生になった今は、クラスがさらに遠くなり、会うことさえもほとんどなくなってしまった。

私はボールを追いかける姿を見つめながら、深い溜息を吐き出した。

彼に恋人がいるという噂は聞かないけれど、その瞳には誰かが映っているのだろうか。

遠い姿をいくら見つめても、その心は見えない。

「あ…」

不意に振り返った彼がこちらを見ている、ような気がする。

(ううん、気のせいだよね。)

たまたま校舎の方を見ただけだろう。

大体、本当にこちらを見ていたのかさえ定かではない。

私は緩く頭を振ってから、机に突っ伏して固く目を閉じた。



(なんだか今日はだめな日だなぁ。)

私はいつの間にか寝てしまっていて、閉館時間になって図書委員の子に起こされた。

陽は沈みかけていて、あたりには黄昏が迫ってきている。

歩きながら、ふと視線を上げると、校門に寄りかかって誰かが立っているのが見えた。

その背の高いシルエットが誰のものか分かると、私の足は自然と止まってしまった。

少し俯いていたその人――忍足くんは私の存在に気付いたのか、こちらに視線を向けた。

ゆっくりと目が合って、鼓動が騒ぎ出す。

私は必死に平静を装って足を踏み出した。



「遅いんやな。」

「うん。ちょっと居眠りしちゃって…」

足を止めて忍足くんと向かい合った私は苦笑いをして、忍足くんのネクタイの結び目に目線を合わせた。

「いくら冷暖房が完備や言うても、気ぃ付けな風邪引くで?」

「そうだね。気を付けるよ。……ええと、忍足くんはこんな所でどうしたの?」

「ああ、自分を待っててん。少し時間ええ?」

「え……どうして?」

思ってもいなかった言葉に、驚きを隠せない。

「なんで、って……そないに俺と話すのが嫌なん?」

ハッとして忍足くんを見上げれば、眼鏡の奥の瞳に淋しげな色が見えた気がした。

「違うよ…っ」

「なら、なんで俺んこと避けるん?」

「私、そんなこと…」

「たまに会うても、すぐに話終わらせるやん。それに、目ぇ合わさへんし。」

「っ……それは、その…」

嬉しさよりも気恥ずかしさが勝った結果の私の行動が誤解されているのだと知って、目の前が真っ暗になる。

「違うのっ…そうじゃ、なくて…っ」

どうやって誤解を解けばいいのか分からなくて、言葉に詰まってしまう。

「…すまん。責めるつもりはなかったんや。」

少し柔らかく弱くなった声と共に、深く俯いた私の頭に大きな手が乗せられた。

「はぁ……余裕なくて情けないわ。」

「……忍足、くん…?」

おずおずと顔を上げると、頭に乗せられていた手はそっと離れ、困ったような笑みを浮かべる忍足くんと目が合った。

「けどな、好きな子に避けらて……嫌われとる思うたら、余裕なんてなくなるで?」

突然の言葉に、忍足くんを見たまま目を瞬かせる。

「好きなんや、みょうじんこと。……困らせて、ごめんな。」

力なく微笑んで、私に背中を向けようとした忍足くんの制服の裾をとっさに掴んだ。

「みょうじ…?」

溢れそうになる涙を堪えて、驚いた表情をしている忍足くんを見つめる。

「…っ……私も、好き……忍足くんが…」

「……ホンマに?」

「う、うん…」

なんとか伝えたけれど、やっぱり恥ずかしくて、全身が熱くなる。

「ヤバイ……めっちゃ嬉しいんやけど。」

口元を片手で覆った忍足くんの顔が少し赤い。

「今は見んといて。」

伸びてきた手に腕を引かれ、私は忍足くんの胸の中におさまった。

「っ…、………あ、あの…」

伝わってくる温かさに、さらに体温が上がり、心臓の音も大きくなる。

「少し、こうしとって。」

耳元でした声に小さく頷けば、忍足くんの腕の力が少し強くなった。


――私たちは臆病になって遠回りをしてきたけど、お互いを想った時間はきっと無駄じゃないと思う。



あなたを想って止まない
(2011.06.04)
 


 菜々美さん、リクエストありがとうございます!
 ちゃんと切甘になっていますかね? なんだか切なさも甘さも足りていないような気がしておりますが…。切甘ということで、『両想いなのに、お互いに気付かなくて擦れ違っていた二人』という感じにしました。ヒロインは忍足さんに会っても緊張して上手く話せなくて、その場から逃げるような感じになってしまい、忍足さんに誤解されていました。また、ヒロインが図書館からテニスコートを見ていたことに忍足さんは気付いていました。ですが、距離があるので、誰を見ているかまでは分かっていませんでした。忍足さんは純情といいますか、自分の恋愛になると不器用、という感じにしましたので。
 補足しないと伝わらない話でごめんなさい。気に入らなかった場合は書き直しますので、遠慮なくおっしゃって下さいね。


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