5万打感謝企画 | ナノ


屋上から学校の中に戻ってきた私は3年生の教室の廊下を歩いていた。

当然だけど、すれ違うのは3年生の先輩ばかりで、どうにも居心地が悪い。

ただでさえ違う学年の校舎は緊張してしまうのに、1クラスずつ教室の中を覗いている今の私は少し不審者っぽいから尚更だ。

だけど、中庭や裏庭でもジロー先輩を見つけられなくて、もう心当たりがない以上、校内をしらみつぶしに探すしかない。

「あっ!」

探していたジロー先輩の姿を見つけて思わず声を上げてしまい、慌てて両手で口を押さえた。

閉められているドアの窓ガラスから中をよく確認してみると、寝ているジロー先輩の他には誰もいない。

「失礼しまーす。」

なんとなく小声になり、教室のドアをそっと開けて中に入る。

「ジロー先輩、起きてください。部活に行く時間ですよ。」

机に投げ出した自分の腕を枕にして寝ているジロー先輩に声をかけてみるけれど、反応は全くない。

「ジロー先輩! 起きてくださいっ!」

今度は少し大きな声で呼びかけて肩を揺すってみるけれど、ジロー先輩は気持ち良さそうに寝たままだ。

「どうしよう…」

樺地先輩を呼んでこようかなと考えたけれど、教室の壁にある時計を見れば、もう部活が始まっている時間だった。

いつもジロー先輩を探すのは樺地先輩だけど、頼るわけにはいかない。

たぶん、部長は樺地先輩の練習時間が減ってしまうから、私にジロー先輩を連れてくるように言ったのだろうし。

だから、私が自分でどうにかしなくては。

(待ってたら、自然に起きて……くれないよね。)

どうしたらいいのだろうと困り果てながら、幼い寝顔を見つめる。

(なんだか…)

ここまで気持ち良さそうに寝ていると、起こしてしまうのが可哀想になってくる。

だけど、早く行かないとジロー先輩が部長に怒られてしまうだろう。

「早く起きてくださいよー」

少し屈んで、つんつんと柔らかい頬っぺたを人差し指でつつく。

だけど、ジロー先輩が起きる気配はなくて、静かな寝息が聞こえるだけだ。

和んでいる場合ではないのだけど、その可愛らしい寝顔は見ていると微笑ましい。

「どうしよう。」

なんだか、今、すごく好きだと思ってしまった。

そっと心の中にしまってきた気持ちが急に込み上げてくる。

「ジロー先輩…」

どきどきしながら耳元に唇を寄せると、太陽のにおいが鼻先をかすめた気がした。

「好きです。」

夢の中にいる想い人に伝えた言葉は、開けられたままの窓からざぁっと吹き込んできた風にさらわれた――

と思ったのに、

「今の、ホントだよね?」

寝ていたはずのジロー先輩がぱっちりと目を開け、私を見上げている。

「な、なんでっ?!」

驚いて身を引いた私の頭の中はパニック寸前だ。

そんな私をよそに、身体を起こしたジロー先輩はにこっと私に笑いかけてきた。

「俺もなまえちゃんが好きだよ。」

「っ……」

どうしよう、言葉が出てこない。

黙ったまま、熱が頬に集中するのを感じていると、ジロー先輩は私の手をきゅっと握ってきた。

「ねぇ…俺のこと好き?」

「……っ…、……好き、です。」

「へへー ありがと。」

消え入りそうな私の声はちゃんと聞こえたみたいで、ジロー先輩は満面の笑みを浮かべた。

私もそれにつられて、紅い顔のまま少しだけ笑った。



並んで廊下を歩いていると、ジロー先輩が私の手を取ってきて、私はどきどきしながらその手を握り返した。

心臓が煩くて落ち着かないけれど、それはどこか心地良くもある。

「あの、ジロー先輩…いつから起きていたんですか?」

少しだけ冷静になると、ひとつの疑惑が浮かんできた。

「いつからだろうね〜」

さっきからずっと上機嫌なジロー先輩はにこにこ笑ってはぐらかす。

大好きな笑顔を向けられると、追求しようという気は削がれてしまう。

「それよりさ、みんなビックリするよね。」

ぶんぶんと楽しそうに繋いだ手を揺らす先輩に、私は首を傾げる。

「俺となまえちゃんが付き合うことになったって言ったら。」

「えぇっ?!」

「…なんで驚くの?」

「だって…そんな……つ、付き合う、とか…っ」

たぶん、そういう関係になるのだろうけれど、言葉にされるとなんだか無性に照れてしまう。

「真っ赤になって可愛E〜」

「っ…や、……あの…」

反応に困っていると、ジロー先輩が急に立ち止まった。

「なまえちゃん、俺の彼女になってくれるよね?」

「っ……はい。よろしく…お願いします。」

真っ直ぐに見つめてくるジロー先輩を同じ様に見つめ返しながら頷いた。

「うん、よろしくねっ じゃあ、早く行こ! みんなに報告しなきゃ。」

心底嬉しそうに笑ったジロー先輩は私の手をぐいぐい引っ張って歩き始める。

「ま、待ってくださいっ 私、まだ心の準備が…っ」

私はジロー先輩の後をついていきながら、あと数分後のことを考えて、さらに顔を赤くした。



可愛い人
(2011.05.30)
 


菜子さん、
お祝いメッセージとリクエストありがとうございました!
 ちゃんとリクエスト通りになっていますかね? ジロちゃんはあんまり(というか一回しか)書いていないので、これで大丈夫なのか…。
 男の子っぽく書いたほうがいいのかな?と思いつつ、学プリ(モアプリ)での可愛い感じのジロちゃんになりました。やっぱり、好きな子が相手なら口調は柔らかい感じになるかなと思いまして。
 普段なら、ジロちゃんを連れてくるのは樺地の役目だと思われます。でも、ジロちゃんが「なまえちゃんが迎えに来ないと部活に行かない!」とか駄々をこねた結果、跡部さんが仕方なくヒロインに迎えに行かせたという設定だったりします。
 蛇足だったかもしれませんが、部活に向かうシーンも書かせて頂いました。ジロちゃんは嬉しいことがあったらテニス部のみんなに報告するんじゃないかな、と思います。
 気に入らなかった場合は書き直しますので、遠慮なくおっしゃって下さいね。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -