5万打感謝企画 | ナノ


「みょうじ、おはようさん。」

朝、教室に向かって廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。

「おはよう、白石くん。…今日、部活は休みなの?」

隣に並んだ白石くんは普段なら朝練をしている時間だと思って聞いてみると、コート整備があるのだと答えが返ってきた。

「もしかして、残念やった? 俺の練習しとる姿が見られんくて。」

「な、なに言って…っ」

「違うん? …残念やわ。」

「え……や、その…」

否定も肯定も出来ず、頬には熱が集まってくる。

「赤くなり過ぎやろ。ただの冗談やで?」

「……いじわるだ。」

またからかわれたのだと分かり、私は少し恨めしげな視線を白石くんに送った。

「そんな顔しても可愛えだけやで、なまえちゃん。」

不意打ちで名前を呼ばれて固まった私の頭をぽんぽんと撫でて、白石くんは楽しそうに笑った。



掃除が終わった放課後の教室には誰もいなくて、私が紙にシャープペンを走らせる音だけがしている。

不意にドアが開く音がして、学級日誌から顔を上げて教室の入り口を見れば、見慣れた人物が立っていた。

「財前くん、どうしたの? 白石くんも忍足くんも帰っちゃったよ?」

「別に、あの人らに用があった訳やないです。」

ほんの少し眉を寄せた財前くんは、開けたドアをそのままにして教室に入ってきた。

「日直、一人なんスか?」

「うん、もう一人は早退しちゃったから。」

私の前の席のイスに反対向きに座った財前くんは興味無さそうに「ふーん」とだけ相槌を打った。

白石くんと忍足くんがいるからだろう、財前くんはこのクラスに顔を出すことがあり、私もたまに話したりする。

今は特に話がある訳でもないみたいだから、私は日誌の続きを書くことにした。

「部長とは上手くいってるんスか?」

急に口を開いた財前くんの言葉に、手元が狂ってシャープペンの芯がポキッと折れてしまった。

「なっ、なんで、白石くんのこと…っ?!」

もしかして財前くんは私の気持ちを知っているのだろうかと、大きく動揺する。

「分かりやす過ぎてバレバレっすわ。けど、脈無いんやから、さっさと諦めたほうがええんとちゃいます?」

「……そんなこと、言わないでよ。」

望みがないのは自分でも分かっているけれど、はっきりと言われると落ち込んでしまう。

「想うより想われたほうが幸せやって、よく言うやないですか。」

俯いて少し泣きそうになっていると、不意にシャープペンを握っている手が温もりに包まれた。

不思議に思って顔を上げると、いつもはあまり目を合わせない財前くんが真っ直ぐに私を見ていた。

「俺、みょうじ先輩が好きです。ちゃんと大事にしたります。せやから、俺と付き合うて下さい。」

「っ、……その……わ、私…」

「そこまでや。」

急に厳しい声が降ってきて、私の手を包んでいた財前くんの手が離れた。

「部長、邪魔せんといて下さい。」

財前くんは自分の腕を掴んでいる白石くんの手をぞんざいに振り払い、きつく睨みつけた。

「この場合、邪魔なんは自分のほうやろ?」

「後から来といて何言うとるんスか。さっさと失せて下さい。」

険悪な雰囲気を漂わせる二人を前に、私はオロオロするしか出来ない。

「簡単に引き下がる思っとるん? 俺はみょうじが好きなんや。譲る訳あらへんやろ。」

「……うそ…」

思わず、掠れた声が口から零れ落ちた。

財前くんを見返す白石くんの横顔は真剣そのものだけれど、私は信じられない気持ちでいっぱいだ。

「本気なんスか?」

「ああ、勿論や。」

迷いなく応えた白石くんに、財前くんは呆れたように溜息を吐いた。

「アホらし。……けど部長、油断しとったら遠慮なく掻っ攫いますんで…覚えといて下さい。」

「そんな事にはならん。」

「財前くんっ! あの…っ」

イスから立ち上がって私たちに背中を向けた財前くんを呼び止めたものの、かける言葉は見つからない。

「部長に飽きたら、いつでも俺んことに来て下さいね。」

ドアの前で立ち止まった財前くんは振り返らずに、そう言ってから教室を出て行った。

申し訳ないとか、ありがとうとか、一言では言い表せない気持ち混ざり合い、胸の中がぐちゃぐちゃになっている。

「我慢せんと、泣いてええよ。」

奥歯を噛み締めて溢れそうな涙を堪えていると、そっと抱き寄せられた。

「…っ、……ごめっ……白石、くん…」

触れた優しさに、堰を切ったように涙が溢れ、私は白石くんの肩口に顔を埋めた。

「みょうじが謝ることはないで。……俺が悪いんやから。」

「……どうして、そんなこと…」

思わず顔を上げたけれど、白石くんが滲んで見える。

「自分の気持ちに気が付くのが遅かったんや。その所為で……ごめんな。」

白石くんは躊躇いがちに私の頬を撫でて、どこか切なそうに微笑んだ。

「好きやで、なまえ。俺、本気やから…」

「っ、…うん。私も…白石くんが好きだよ。」

そこまで言うと強く抱き締められて、また涙が零れた。



思いがけない告白
(2011.06.15)
 


 愛里彩さん、リクエストありがとうございました!
 こんな感じで大丈夫でしょうか? ヒロインの『しっかりものやけど、どこか抜けてる感じ』というのが表現出来なくて申し訳ないです。ヒロインをからかう白石くん・ヒロインに迫る(告白する)財前くんを書くので、いっぱいいっぱいでした。しかも、財前くんが目立ってしまったような気がします。白石くんがメインなので、格好良く書きたかったのですが…。
 白石くんがヒロインの気持ちに気付いていて応えない理由が、自覚がなかったという以外に考えつきませんでした。他人の気持ちには敏感だけど自分のことには鈍い、という感じです。そうじゃないと白石くんがちょっと嫌な奴になってしまいそうでしたので。あとは、ヒロインが自分を好きだと分かっていて安心していた、という理由もあるかもしれません。
 気に入らなかった場合は書き直しますので、遠慮なくおっしゃって下さいね。


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