クリスマス



吐き出した白い息が空気中に散って消えていく。

既に日は落ちており、辺りは薄暗い。

「みょうじ、生徒会の方はどうだ? 何か困った事はないか?」

「大丈夫ですよ。丁寧にいろいろ教えて頂いたので、問題ありません。」

「そうか。それならば良かった。」

「はい。でも……先輩方がいないのは寂しいです。」

「俺も…物足りないと思っている。」

憂いを秘めた彼女の横顔をちらりと見て口にした言葉は偽りのない気持ちだ。

生徒会の仕事の引継ぎを始めた当初は何かと口実を作って彼女に会いに行く事も出来たが、それも長くは続かなかった。

今日のように偶然を装って共に帰った事は数えるくらいしかない。

だが、そんな彼女との関係は今日から変えるつもりだ。

「ところで、みょうじ。」

「はい、何ですか?」

「時間が許すなら、少し俺に付き合ってくれないか?」

「はい、いいですよ。どこに行くんですか?」

「付いて来れば分かる。」

「や、柳先輩…っ?」

彼女の手を取って帰り道とは別の方向へ歩き出すと、戸惑いながらも一緒に付いて来てくれた。



「わぁ…綺麗ですね。」

煌びやかに彩られたイルミネーションに、彼女は目を輝かせた。

「ありがとうございます、柳先輩。…その……わざわざ連れて来てくださったんですよね?」

俺を見上げて満面の笑顔を向ける彼女に、自分も自然と口元が緩む。

「喜んで貰えたのなら何よりだ。」

「嬉しいです。本当にありがとうございます。……もう少し、見ていてもいいですか?」

「ああ、勿論だ。」

頬を染めてイルミネーションへと視線を戻した彼女の繋いだままの手を、俺は少し強く握り直した。

互いに手袋をしている事が少し残念に思う。

自分もイルミネーションへと目をやるが、正直なところ、華やか過ぎる光は好みではない。

だが、彼女が喜んでくれたのであれば、それだけで満足だ。

ふと、隣から視線を感じて彼女の方に顔を向ければ、彼女は真剣な目で俺を見つめていた。

「どうした?」

「あの……どうして、私と一緒にここへ来てくれたんですか?」

「息抜きになれば良いと思ってな。お前は大丈夫だと言っていたが、まだ慣れない部分もあって色々と大変だろう?」

「そう、ですか。…ありがとうございます。」

俺の答えに落胆したのを隠し切れていない彼女の表情が暗くなる。

「というのは、建前だ。ただ、俺がお前と過ごしたかっただけだ。」

今度は本当の事を口にして、俯きかけた顔を勢いよく上げた彼女に微笑みかけてやる。

「日本的なクリスマスとしては、家族よりも恋人と過ごすのが一般的だろう? たまには、世俗の慣習に流されるのも悪くないと思ってな。」

「っ……せ、先輩…あの…」

「はっきり言おう。俺はお前が好きだ。今日だけでなく、ずっと共に過ごしたいと思っている。」

煌めく光に照らされた綺麗な瞳を見つめながら告げる。

彼女は大きく目を見開いた後、これ以上ないくらいに破顔した。

「私も柳先輩が好きです。だから、その…これからも、よろしくお願いします。」

「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。」

どこまで許されるのかと少し躊躇ってから、彼女を正面から抱き寄せた。

俺のコートを握り締める彼女の頭を撫でていると、純白の雪が空から舞い降りてきた。


(2012.12.01)

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