クロスやクリスマスの小物でセッティングしたテーブルの上に出来たばかりの料理を並べ、壁の時計を見る。
「これで完璧、だよね。……あっ、来た!」
チャイムの音がして、私はパタパタとスリッパの音をさせながら玄関に向かった。
「よお。」
勢いよく玄関のドアを開けると、首に巻いたマフラーに口元を埋めた先輩が立っていた。
「どうぞ、入ってください。」
「ああ、邪魔するぜよ。」
靴を脱いだ先輩に来客用のスリッパを出す。
「時間ぴったりですね。」
「そりゃあの。…ええ匂いしとるな。」
「ちゃんと味にも自信ありですよ。」
言いながら、リビングのドアを開ける。
「おお、すごいのぅ。うまそうじゃ。」
「頑張りましたから。冷めないうちに食べましょう。」
ダイニングテーブルに向かい合わせに座り、ノンアルコールのスパーリングワインが入ったグラスで乾杯をする。
色が可愛いからという理由だけで選んだロゼに口をつける。
ちょっと背伸びをしてみたかったのだけれど、残念ながら私の口にはまだ早かったらしい。
「なまえは料理上手やのぅ。美味いぜよ。」
「ありがとうございます。…ちゃんとサラダも食べてくださいね?」
「…分かってるナリ。」
ローストチキンにかじりついている先輩がスッと目を逸らしたのが妙に子供っぽくて、私は小さく声を上げて笑った。
先輩も手伝ってくれて後片付けを済ませ、今はリビングのソファーに二人で座ってのんびりしていた。
目の前のローテーブルには、空になったコーヒーカップとケーキの箱が乗っている。
先輩が買ってきてくれたケーキはすごくおいしくて(小さかったし)、食事の後だったのに2個も食べてしまった。
明日は体重計に乗るのが怖いけれど、今は考えないようにしよう。
心もおなかもいっぱいで、隣の先輩にもたれかかれば、優しく肩を抱き寄せられた。
「今日はありがとさん。」
「私こそ、ありがとうございます。一緒に過ごしたいってわがままに付き合ってもらって。」
「我侭じゃないじゃろ。俺だって同じ気持ちだったんじゃし。…まあ、俺はクリスマスじゃなくても一緒にいたいが。」
「私もですよ。」
両親を「たまにはゆっくりデートを楽しんできたらいいよ」と送り出したから、まだしばらくは二人きりで過ごせる。
私は先輩の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
「……ん…?」
いつの間にか、先輩にもたれたままで眠っていたらしい。
ふと、左手に違和感を覚えて見てみると、薬指に見覚えのないシルバーのリングがはめられていた。
「まさ…」
先輩に声をかけようとした私は、あわてて自分の口を両手で押さえた。
「ありがとうございます、雅治先輩。」
起こしてしまわないように小さく囁いて、眠っている先輩の頬に自分の唇を触れさせる。
閉じた目をそっと開けると、先輩が悪戯っぽい目で私を見ていた。
「やり直しじゃ、なまえ。ちゃんと口にしてくれんとダメじゃろ。」
驚いて身を引こうとしたけれど、背中には先輩の両手が回っていて、それは出来なかった。
「なまえ。」
嬉しいプレゼントをもらったし、こんなに優しく微笑まれたら断れない。
「っ、……メリークリスマス、です。」
私はぎゅっと目をつむって、今度は先輩の唇に自分の唇を寄せた。
(2012.12.24)
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