ハロウィン | ナノ


「これで最後ですからね。」

「おう、サンキューな!」

手作りの焼き菓子が入ったラッピング袋を渡すと、丸井先輩はにこにこ笑って私の頭を撫で回してきた。

「わわ…っ ぐしゃぐしゃになっちゃいます!」

「じゃあな!」

私の抗議なんてお構いなしに、丸井先輩は廊下を走っていなくなってしまった。

「……あ、真田先輩だ。」

廊下の曲がり角の向こうから聞き慣れた怒鳴り声が聞こえてきて、私は苦笑いを零した。

「相変わらず落ち着きがないな、あいつは。」

大好きな声に振り返れば、少し呆れたような顔で廊下の先を見ている蓮二先輩がいた。

「すみません、探させてしまいましたか?」

「いや、ちょうど教室から出たところでお前の姿が見えたんだ。帰る準備は出来ているか?」

「はい、大丈夫です。」



時折、赤や黄色に色付いた街路樹の葉っぱがひらひらと舞い落ちてくる。

蓮二先輩が私に合わせてくれているから、歩くペースはゆっくりだ。

「先程は丸井にたかられていたようだが、大丈夫だったのか?」

蓮二先輩の言葉には明らかに主観が含まれていて、苦笑してしまう。

「大丈夫ですよ。3個で我慢してもらいましたから。」

「丸井を甘やかしてやる必要は無い。ついでに言えば、赤也のこともな。」

「…はい、分かりました。」

意外とやきもちを焼きやすい年上の恋人の機嫌を損ねたくなくて、素直に頷く。

「それで、菓子は無事に配れたのか?」

「はい、他の先輩たちにもちゃんと渡せました。そこそこ数を用意したつもりだったのですが、友達にもあげたので、全部なくなっちゃいました。」

「そうか、やはり残っていないのか。」

「……蓮二、先輩?」

なんだか隣から不穏な空気を感じる…ような気がする。

「これは言うしかないな。」

「だっ、だめです! そういうのはなしです!」

明らかに良からぬことを企んでいそうな表情をしている蓮二先輩を必死に制止する。

「フッ…冗談だ。」

「もうっ、意地悪しないでください。悪戯されちゃうかと思って焦ったじゃないですか。」

私が形だけ怒ってみせると、蓮二先輩は自分の鞄から何かを取り出した。

「悪かった、なまえ。これで許してくれ。」

目の前に出されたのは、いかにもハロウィンといったカボチャやコウモリの絵が書かれた四角い缶だった。

「お菓子、ですか?」

「ああ、クッキーの詰め合わせだ。お前の事だ、人にあげるばかりだと思ったからな。」

「ありがとうございますっ」

お礼を言って、可愛い絵柄の缶を受け取る。

「喜んでもらえて何よりだ。」

静かに笑みを浮かべるのを見て、やっぱり好きだなぁと甘い感情を覚える。

「どうした?」

「い、いえ。」

ぽーっと蓮二先輩を見つめてしまっていた自分に気付き、慌てて視線を前に戻す。

「そうか。」

蓮二先輩は息だけで微かに笑うと、自然な動作で私の手を取った。

繋がれた手を握り返し、私達はさっきよりも近くに寄り添って歩いた。


(2011.10.19)

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