ハロウィン | ナノ


「清純先輩……部室に顔を出すなら、みんなの練習を見てあげてくださいよ。」

部室に入って来た彼女は、中で待っていた俺を見るなり呆れたような表情をした。

「えー、嫌だよ。俺はキミに会いに来てるんだから。それにさ、練習なら南たちが見てるからいいじゃん。」

「もう…」

「そんなことよりさ、今日はハロウィンだよね。」

「はぁ…そうですね。」

「そういう訳で……Trick or Treat !」

俺が笑顔で言うと、彼女は部室の隅に置いてあった紙袋の中から可愛いラッピングの袋を取り出し、にっこり笑ってそれを俺に差し出した。

「どうぞ。クッキーです。」

「あ、うん、ありがとう。」

(うーん、予定は違ったんだけどなぁ。)

「いいえ、どういたしまして。……清純先輩。」

「なんだい?」

「Trick or Treat ?」

「えっ…」

「何も持ってませんよね? いろんな女の子からもらったお菓子は他の人達にあげてたから。」

「見られてたんだ。……ええと、イタズラするの?」

「もちろんです。目、閉じてください。」

「う、うん。」

ちょっと期待しつつ目を閉じると、頬に何かが触れる感触がした。

だけど、それは彼女の唇の感触じゃなかった。

「もういいですよ。」

俺が目を開けると、彼女はクスクスとおかしそうに笑っていた。

「なまえ……何、したの?」

「自分で確かめてください。」

彼女が渡してきた折りたたみの鏡を開いて自分の頬を見ると、ハロウィンのかぼちゃの顔が笑っていた。

「な、何これ!?」

「水性ですから水で洗えばすぐ落ちますよ。では、私は仕事があるので行きます。」

「ちょっと待ってよ。」

俺に背を向けてドアの方に歩いていく彼女を背中から抱き締めた。

「忙しいんですから離してください。」

彼女の身体に回した腕をペチッと軽く叩かれる。

「冷たいなぁ、なまえは。」

「ちゃんとハロウィンっぽいじゃないですか。」

「そうじゃなくってさ、ちゃんと俺に構ってよ。」

「今、部活中なんですが。」

「そんな話、楽しくない。」

ワガママを言っている自覚はある。

だけど、時間のある自分と違って彼女は忙しいから、会えた時くらいは相手をしてほしい。

「部活が終わったら、私の家に来てくれます?」

「えっ、いいの!? 行く行く!」

予想外の彼女からのお誘いに、一気にテンションが上がる。

「昨日、アップルパイを焼いたんです。…先輩と一緒に食べようと思って。」

「なまえ、好きだよ、大好きー!」

ちゃんと俺のことを考えてくれていたことが嬉しくて、彼女を抱き締める力を強くする。

「分かりましたからっ、離してください! く、るし…っ」

「ごっ、ごめん! 大丈夫!?」

俺は慌てて腕を解いて彼女の顔を覗き込んだ。

「……大丈夫、です…」

「ほんとに大丈夫?」

「清純先輩。」

俺に向き直った彼女は少し頬を染めて、けれど真剣な顔をしていた。

「ちゃんと、私だって……大好きですから。」

珍しく言葉にしてくれた彼女に、俺はすぐ笑顔になってしまう。

「なまえ……うん、ありがと。」

俺が彼女の手を握ると、ちゃんと握り返してくれて、

「好きだよ、なまえ。」

黙って目を閉じた彼女の唇にそっと口付けた。


(2011.10.15)

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