私が撃ったコルク栓はどの景品にも当たることなく地面に落ちた。 後ろから先輩の笑いを噛み殺す声が聞こえてくる。 「下手っぴやのぅ、なまえ。」 「……仕方ないじゃないですか。初めてやったんですから。」 肩まで震わせている先輩に、少しムッとしてしまう。 「そう怒りなさんな。俺が教えてやるきに。」 「ひゃっ……に、仁王先輩!?」 最後の一発となるコルク栓を空気銃の先に詰めると、私の肩越しに先輩が顔を出した。 頬や首筋に銀色の髪が当たって少しくすぐったい。 私が固まっていると、先輩の左手が私の肩に置かれ、右手は私の腕に添えられた。 浴衣は布地が薄いから、後ろから抱き締めるように密着している先輩の体温をリアルに感じる。 「これでいいぜよ。……早く打ちんしゃい。」 耳元で先輩の声がして、私は恥ずかしさでいっぱいになりながら、空気銃の引き金を引いた。 「ありがとうございます、仁王先輩。」 私の手には、長い耳を垂らしたウサギのぬいぐるみがある。 「いいって。」 やけに優しく微笑まれて、先輩を直視できずに目を逸らしてしまう。 「やっぱり可愛いのぅ。……その浴衣。」 「…ありがとうございます。」 一瞬、自分のことを言われたのだと思ってしまったのが恥ずかしい。 だけど、白地に濃淡のピンク色で百合が描かれた浴衣は自分でも気に入っているから、褒めてもらえたのは嬉しい。 「冗談じゃよ。浴衣を着とるなまえが可愛い。」 「っ、……その…」 「ほんとに可愛いのぅ、お前さんは。」 紅くなって言葉に詰まっている私の頭を先輩はくしゃりと撫でた。 川沿いの道を歩いていると、なんとなく口数が減ってしまう。 「そんな淋しそうな顔しなさんな。」 「すみません。」 「謝らんでええ。…なまえ、左手を出しんしゃい。」 「え…?」 「いいから。」 急に立ち止まった先輩は繋いでいた手を離すと、私の左手を取った。 「あ…」 私の薬指に黄色のイミテーションの宝石がついた銀色のリングがはめられた。 「縁日の安物じゃけど。」 「嬉しいです! ありがとうございます!」 「そこまで喜んでもらえて何よりじゃ。」 「仁王先輩からもらったものなら何でも嬉しいです。」 「……お前さんには敵わんのぅ。」 先輩は苦笑いしながら言うと、私を抱き締めてきた。 「あ、あの…っ 離して、くれませんか?」 好きな人に抱き締められて嫌な訳はないけれど、ドキドキし過ぎて心臓に悪い。 少しだけ身を捩ったら、先輩の腕の力が強まった。 「もう少しこうしとって。」 「…はい。」 私は躊躇いがちに先輩の背中に手を回した。 「なまえは抱き心地が良いのぅ。離したくないナリ。」 「っ……」 頭に口付けられた感触がして、ますます体温が上がる。 「今日のは予約の代わりじゃ。いずれ、ちゃんとしたのをプレゼントするから待っててくれんか?」 「…はい、楽しみにしてます。」 「なまえ。」 先輩は少し身体を離すと、私の頬に手を添えて上を向かせた。 「好いとうよ。」 「私も仁王先輩が好きです。」 緊張しながらそっと目を閉じると、優しい口付けが落とされた。 (2011.08.21) ← |