夏企画 | ナノ


紺地に白い牡丹が描かれた少し大人っぽい浴衣を着た私は、逸る気持ちで待ち合わせ場所に向かっていた。

履き慣れない下駄は歩きにくいけれど、自然と足早になってしまう。

浴衣が着崩れないだろうかとか、アップにした髪が乱れないだろうかとか…気にはなるのだけれど。

まだ約束の時間の15分前なのに、待ち合わせ場所に着くと、その人はやっぱり先に来ていた。

「景吾、待った? ごめんね。」

「いいや。……へぇ。」

「な、なに…?」

蒼い瞳にじっと見つめられて、少し鼓動が速くなる。

「お前にしては良いんじゃねぇの?」

景吾は少し口角を上げると、私の腰に手を回して歩き出した。

「なに、それ。あんまり褒めてないよ。」

「いや、褒めてるぜ? なかなか色っぽくて良い。…特に、この辺がな。」

急に景吾が顔を近付けてきたかと思うと、露わになっている項に唇が触れた。

「っ……」

一気に顔を紅くした私を見て、景吾は喉の奥で笑った。



「おい、なまえ、花火はどうしたんだよ。」

人混みにうんざりしたのだろう、不機嫌を隠そうともしない景吾の声に苦笑する。

「見るけど、まだ時間あるでしょ?」

出店のおじさんからリンゴ飴を受け取った私は、少し離れて立っている景吾に振り返った。

「何言ってやがる。そろそろ時間だぜ。」

「え、嘘っ……あ。」

腕時計を確認しようとした時、花火の開始を告げる音が夜空に響いた。



出店の立ち並ぶ場所から離れ、花火が見えやすい場所へと移動した。

天を叩く音が響き、漆黒の闇が色とりどりの光で彩られる。

「すごい…綺麗だね。」

「そうだな。」

私の肩に腕を回して抱き寄せた景吾に、身体を預ける。

次々に打ち上げる花火を見ていると、急に景吾の手が私の頬に触れた。

そして、次の瞬間には唇が重ねられていた。

「…甘いな。」

景吾は触れるだけの口付けをしてから、私の下唇を舐めて小さく笑った。

「っ、…こんな人がたくさんいる場所で……信じられない。」

周りには、私たちと同じように花火を見ている人たちがいるというのに。

「花火に夢中で誰も見てねぇよ。」

「そういうことじゃないでしょ。またやったら、本気で怒るからね。」

「分かった分かった。」

私は景吾を軽く睨んでから、再び花火で彩られている夜空を見上げた。

少しして、景吾が今度は私の髪に口付けたのが分かった。

でも、私は何も言わず、手に持っているリンゴ飴を小さくかじった。


(2011.07.03)

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