「ちゃんと似合ってる…よね?」 スタンドミラーに写った自分の姿を確認するけれど、自分じゃよく分からない。 一目惚れして買ってもらった、薄いピンク色に濃いピンク色のダリアの花が大きく描かれた浴衣は可愛いのだけれど…。 いまいち自信が持てないけれど、いつまでも鏡の中の自分と見つめ合っていても仕方ない。 それに、そろそろ家を出ないと遅れてしまうかもしれない。 大丈夫だと自分に言い聞かせた私は、浴衣に合わせたピンク色の巾着を持って玄関に向かった。 「えっ…清純くん?!」 下駄を履いて玄関を出たら、まだ約束の時間より前なのに家の前に清純くんがいた。 「なまえちゃん……可愛い、超可愛いよ!」 清純くんは私の姿を見るなり、ニコニコと笑って褒めてくれた。 「あ、う……ありがとう。」 「いつも可愛いけど、今日は一段と可愛いよ!」 「っ……遅くなっちゃうから、そろそろ行こうよ…ね?」 顔が火照ってきた私は、夏祭りが行われる神社に向かおうと清純くんを促す。 「そうだね、行こうか。」 どちらからともなく手を繋いで、暗くなり始めた空の下を歩く。 隣を歩く清純くんはいつもよりもゆっくりと歩いている。 慣れない下駄を履いている私に合わせてくれているのだと思う。 そういう優しさが嬉しくて、幸せだなって思う。 「楽しそうだね。」 「えっ?」 「お祭り、楽しみなんでしょ?」 「…うん、そうだよ。」 清純くんのことを考えていたというのは気恥ずかしくて、否定せずに頷く。 「清純くんもすごく楽しそうだね。」 「そりゃあ、もちろんだよ。キミとデートなんだから、楽しいに決ってるじゃない。」 屈託ない笑顔が向けられるのが眩しい。 「私も、清純くんと一緒だから楽しいよ。」 「そう? そう思ってもらえて嬉しいなぁ。」 清純くんは本当に嬉しそうに笑うと、繋いでいる手をきゅっと握り直した。 お祭りの会場に着く頃には、陽が完全に落ちて薄暗くなっていた。 ぼんやり灯る提灯の明かりに賑やかなお囃子がお祭りの雰囲気を盛り上げている。 「やっぱり人が多いね。……あっ!」 はぐれないように気をつけなきゃと言おうとした矢先に人の波に流され、繋いでいた手が離れてしまう。 「なまえちゃんっ!」 清純くんが腕を伸ばしてきて、私を身体ごと引き寄せた。 「っはぁ……焦った。…大丈夫?」 「うん、だいじょ…、っ!」 顔を上げた私は、あまりに近い距離に息を飲んだ。 今まで、こんなに風に近付いたことはなかったから。 一気に顔に熱が集まる。 「なまえちゃん? ほんとに大丈夫?」 「だ、だだっ大丈夫!」 一度意識してしまうと、どうしていいか分らない。 触れ合っている身体も背中に回っている腕も、すごく気になってドキドキしてしまう。 「そんなに可愛い反応されると、困っちゃうんだけどな。」 眉尻を下げて笑う清純くんの顔が少し赤く見えるのは、たぶん明かりのせいだけじゃない気がする。 「あの……清純くん?」 「…出店、回ろうか。」 清純くんは私から目を逸らしながら、そっと身体を離した。 「う、うん…そうだね。」 お互いにぎこちない感じになりつつ、また手を繋いだけれど、なんだか寂しいと感じてしまった。 私は躊躇いながらも、清純くんの腕に自分の腕を絡めた。 「えっ…なまえちゃん?」 「そのっ……はぐれたら困る、から…だめ?」 驚いた様子の清純くんに不安になりながら聞くと、一瞬の間の後、にっこり笑ってくれた。 「全然! むしろ大歓迎だよ。」 少し紅い顔で笑い合って、私たちは祭りの喧騒に紛れていった。 (2011.07.30) ← |