日が沈んで暗くなり始めた空の下、私は色とりどりの水玉模様が散らばった白地の浴衣を来て神社に向かっていた。 幸村部長の提案で、息抜きの為にテニス部のみんなで夏祭りに行くことになっているのだ。 「よっ! なまえ。」 浮かれながら歩いていると、ぽんと肩を叩かれ、私は立ち止まって振り返った。 「ブン太先輩! こんばんは。」 「おう。浴衣、可愛いじゃん。」 「そ、そうですか?」 「ああ、可愛い可愛い。」 「っ、……ありがとうございます。」 先輩に頭を撫でられ、私は照れながら笑った。 あまり大人数で歩くと他の人の邪魔になるだろうと、少人数に分かれることになった。 私は、嬉しいことに先輩が声をかけてくれて、一緒に夜店(もちろん食べ物ばっかり)を回っていた。 「先輩、一度どこかで落ち着いて食べたほうがいいんじゃないですか?」 右手にフランクフルトを持ち、左手には焼きそばとタコ焼きのパックを抱えた先輩に、さすがに少し呆れてしまう。 「大丈夫だって、すぐに食い終わるから。それよりさ、お前のカキ氷、一口くれよ。」 「いいですけど、両手がふさがっているから無理じゃないですか?」 「だから、食べさせてくれって言ってんの。……ほら、早く。」 ニコニコと笑顔を向けられて、とてもじゃないけれど断れない。 「じゃあ、……あーん。」 私は頬が熱くなるのを感じながら、イチゴシロップのかかったカキ氷をストローですくった。 「ん、……うまい。」 ぱくりとカキ氷を食べた先輩は満足そうに笑った。 「サンキューな。…お返しにこれやるよ。」 先輩はフランクフルトを持ちながらも器用にパックのフタを開け、つまようじに刺したタコ焼きを私に差し出してきた。 「け、けっこうです!」 食べさせるよりも恥ずかしくてぶんぶんと首を横に振る。 だけど、先輩は手を引っ込めてくれなくて… 「遠慮すんなって。」 「いえ、遠慮じゃなく…むぐっ」 ほとんど無理矢理に口の中にタコ焼きを放り込まれた。 幸いなことに、タコ焼きは冷めてきていたからヤケドはしないで済んだけど、危うくむせそうになった。 「うまいか?」 「は、はい…」 本当は味わっている余裕なんてなかったけれど、なんとかタコ焼きを飲み込んで、「おいしかったです」と答える。 「じゃあ、もう一個やるよ。」 「……ありがとうございます。」 また無理矢理に食べさせられても困るので、今度は素直に口を開けた。 私に食べさせると、先輩はすぐに自分の口にもタコ焼きを放り込んだ。 「確かにうまいな、このタコ焼き。」 「…すごく楽しそうですね、先輩。」 あっという間に残りのたこ焼きを食べ終え、今度はフランクフルトにかぶりついている先輩を見る。 「そりゃそうだろぃ。食いもんはうまいし、好きな奴と一緒いるからな。」 「そうですか。……え、先輩、今…?」 さらっと言われて聞き流しそうになったけれど、すごく重要なことを言われたような気がする。 「やっぱり気付いてなかったか。俺、お前のこと好きだぜ。」 「……ええっ?!」 「で、お前も俺のこと好きだよな?」 「なっ、なんで知っているんですか?!」 「何でって…お前、分かりやす過ぎじゃん。」 「そう、ですか。……それで、あの…ブン太先輩……その…」 「お前、今から俺の彼女な。」 「は、はい…っ よろしくお願いします!」 「おう、お願いされてやるぜぃ。」 (2011.08.03) ← |