すんげーマズイことになってる。
なんで忘れてたんだ、俺は。
バレンタインの時は自分から催促したくらいにして。
「ヤベェ……」
今日がホワイトデーだと、ついさっき気付いた俺は廊下の真ん中で頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「赤也、どうしたの?」
今だけは聞きたくなかった声がして、ゆっくりと顔を上げれば、彼女が俺を覗き込んでいた。
「具合でも悪いの?」
心配そうな表情をする彼女に、ますます罪悪感が募る。
「全っ然、元気だから。またな、なまえっ」
「あっ、赤也?!」
彼女の戸惑った声を背に、俺は自分の教室まで全力で走った。
昼休みに学校を抜け出して何かプレゼントを買ってこようと思ったが、肝心のお金がない。
俺は彼女と昼飯を食べるのを断って、3年の先輩のところに来ていた。
「っつーワケで、お金貸してください。」
両手を合わせて頭を下げる。
「あー、無理。俺、今月の小遣い使っちまった。」
丸井先輩にあっさりと断られ、今度はジャッカル先輩を見る。
……けど、困った顔をされた。
「悪いが、俺も無理だ。貸せるほど持ってねぇ。」
「そんな〜」
「素直に謝って、今度何か欲しいもんでも買ってやればいいじゃねぇの?」
「だな。あいつはそういう事で怒るような奴でもないだろ。」
「ですけど…」
「赤也、やはり此処にいたのか。」
「柳先輩!」
いつの間にか後ろに立っていた柳先輩の制服の裾を掴む。
「あの…っ」
「断る。」
「まだ何も言ってないッス!」
「そんなことより、みょうじの所に行ってやれ。お前の所為で…」
柳先輩の予想通り、裏庭の木の陰に座っている彼女の姿を見つけた。
駆け寄って、彼女の前に正座すると、彼女は驚いた顔をして俺を見た。
「…あか、や?」
目をぱちくりさせている彼女の目元は少し赤くなっていた。
「悪かった!」
勢いよく頭を下げて謝る。
「今日、ホワイトデーだって忘れてて何も用意してねぇんだ。だから…っ」
「なんだ……そんなこと。気にしないでいいよ。」
どこか安心したような彼女の声だけど、心配で顔を上げる。
「でも、柳先輩がお前が泣いてたって…」
俺がそう言うと、彼女は困ったような気まずいような微妙な表情をしていた。
「それは…その、……今朝もお昼休みも避けられているみたいだったから……私、もしかして赤也に嫌われちゃったのかな、って思って…」
「そんなワケないだろ!」
とんでもない誤解をされそうになっていたと知り、俺は強く否定した。
「…うん。だから、気にしないで。もう大丈夫。」
「俺、なまえが好きだ。ホントに好きだからな。」
ちゃんと気持ちを伝えて、彼女を腕の中に閉じ込める。
「うん、ありがとう。…私も赤也が好きだよ。」
小さな手がぎゅっと背中の制服を掴んできたから、俺は彼女を強く抱き締めた。
(2012.03.01)
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