ホワイトデー | ナノ


※コメディ寄りの内容です。柳さんがキャラ崩壊していますので苦手な方はお引き返し下さい。



「どうする? もう逃げ場は無いぞ、みょうじ。」

目の前には柳、背後は屋上に続く扉。

私は追い詰められていた。

生徒玄関で柳に出くわして、上の階に逃げてしまったのは完全に失敗だった。

金属製の扉に触れている背中がじわじわと冷えてくるのを感じていると、柳は私との距離を詰めて後ろの扉に手をついた。

「あ、あの…っ! ちょっと落ち着こう、ね?」

柳と扉に挟まれる形になり、ここまで走ってきたせいで忙しく動いている心臓がさらに暴れる。

「俺は落ち着いている。焦っているのはお前の方だろう?」

ここまで全力疾走した私を追いかけてきたのに、柳は息ひとつ乱していなくて、涼しい顔をしている。

(だいたい、今日までずっと逃げ切れていたのに、なんで…)

「わざと逃がしてやっていたに決まっているだろう。まさか、俺がお前に追い付けないと本気で思っていたのか?」

「……私いま口に出してた? っていうか、バカにしてる? しかも、わざと逃がしてたとかなんで?」

「お前が必死に逃げる姿が滑稽だったからな。」

「なにそれ! 性格悪いよ!」

最後の質問にとんでもない答えが返ってきた。

「そんな事よりも本題に入りたいのだが?」

(軽くスルーしたよ、この人。)

心の中で突っ込みつつ、どうにか逃げられないかと隙をうかがうけれど、参謀だか達人だかにそんなものはないらしい。

「本題って……なに?」

「それくらいは分かっているのだろう? お前はそれを聞きたくなくて、この一ヶ月ずっと俺から逃げていたのだからな。」

仕方なく聞いてみれば、やっぱり私が避けたがっていることが柳の本題らしい。

今から一ヶ月前に何があったかと言えば、バレンタインデーだ。

単純な私は周りに影響されて勢いで柳にチョコを渡したけれど、急に返事を聞くのが怖くなって、その場から逃げ出した。

どう考えたって、フラれるに決まっているから。

「…ぃ、……おい、お前は人の話を聞く気が無いのか?」

「ひっ! す、すいませんでした!」

思わず声が裏返ってしまったけれど、無理もないと思う。

いつもは閉じている目を開けた柳が眼光鋭く私を睨んでいたのだから。

(視線だけで人を殺せそうだった。っていうか、絶対に私の寿命は縮んだよ。)

いろんな意味で今日は私の命日になるんじゃないだろうか。

「みょうじ、一度しか言わないぞ。」

そう静かに言うと、柳は扉についていた手を下ろした。

「は、はい…っ」

いよいよ覚悟を決めるしかないようだ。

最後くらいはちゃんとしようと、ぎゅっと手を握り締めて柳と目を合わせた。

「俺はお前が好きだ。」

「はい。これでちゃんと諦め……って、ぇええ?!」

なにかの聞き間違いだろうかと自分の耳を疑う。

「あの、柳さん……できましたら、もう一回…」

「一度しか言わないと、そう言った筈だが?」

言い終わらないうちに断れた。

「そうだけど……あなた、本当に私のこと好きなんですか?」

「さあな。」

フンと鼻で笑われた意味が全く分からない。

「優しくない! ぜんぜん優しくないよ!」

「それがどうした。」

「『どうした』じゃないから! 私のこと好きって言ったじゃん。もっと大事にしてくれもいいと思うんだけど!?」

「生憎と俺は人をやたらに甘やかす趣味は無いのでな。」

「……そうですか。なんかもう疲れてきた。」

「一人で騒いでいるからだ。」

「誰のせいだ、誰の。」

ジトッとした視線を向けてみても、柳は軽く受け流す。

「自業自得だろう。最初に逃げたお前が悪い。」

「柳……もしかしなくても、怒ってる?」

腕を組んでそっぽを向いている横顔に訊ねれば、ゆっくりと口角が上がった。

「今後、色々と覚悟しておくんだな。言っておくが、逃げよう等とは思わない方が身の為だ。」

(なんで脅されてるの、私。)

今になって分かったけれど、私はとんでもない人を好きになってしまったらしい。

(これからどうなっちゃうんだろう…)


(2012.03.06)

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