バレンタインデー | ナノ


※仁王さんがヘタレです。キャラ崩壊していますので苦手な方はお引き返し下さい。



「え……チョコ、無いん?」

「う、うん。」

朝、家まで迎えに来てくれた恋人にバレンタインのチョコレートは用意していないと告げると、ものすごくショックを受けた様子だった。

「なまえちゃん……俺んこと、嫌いになったん?」

この世の終わりみたいな悲愴な顔をした雅治は消え入りそうな声で聞いてきた。

「ちっ、違うよ! そんな訳ない!」

慌てて強く否定したけど、雅治は不安そうに私をジッと見つめる。

「ホントに? 俺んこと…好き?」

「好きだよ。」

安心させるように出来る限りの優しい声で言って笑いかけても、雅治の表情は全く晴れない。

「じゃあ、何でなん?」

「それはさ……雅治はチョコが好きじゃないんでしょ?」

「俺、そんなこと言っとらんよ?」

確かに、雅治から直接は聞いていない。

だけど…

「去年…嫌いだからって言って、女の子からのチョコを断ってたでしょ?」

「なっ……何で、知っちょるん?」

「たまたま見ちゃったんだよ。それで、チョコは用意してないの。」

「なんてことじゃ…っ!」

自分の過去の発言を後悔しているのか、雅治は頭を抱え込んでしまった。

「いや、あの、そんなに落ち込まなくても……だいたい、嫌いなもの貰っても嬉しくな…」

「そんなことなか! なまえちゃんから貰えるもんなら何でも嬉しいに決まっちょる!」

「…え、と……ありがとう。」

雅治の勢いに少しビックリしたけど、その言葉は素直に嬉しかった。

「雅治。」

揺れた瞳をしている雅治の手をそっと握り、下から顔を覗き込む。

「……なん?」

「代わりになるか分からないけど、私にして欲しいことない?」

「っ、…なまえちゃん!」

「うわっ!」

「好き好き。大好きっ」

ぎゅうぎゅうと抱き締められて痛いし苦しいけど、悲しませてしまったのだから、これくらいは我慢する。

ここが自分の家の前だということも、今は忘れよう…。

「そ、それで……雅治、なにかある?」

なだめるように雅治の背中をぽんぽんしながら重ねて聞いてみる。

「今日一日、なまえちゃんとベタベタしたい。」

「え、それは……ちょっと…」

急に元気になって期待に満ちた目をする雅治に困ってしまう。

人前でベタベタされるのがすごく苦手な私にとっては難易度が高過ぎるお願いだ。

今だって、いたたまれない気持ちになっているのに。

「ダメなん? なまえちゃん、何でもいいって言うたのに…」

ちょっと待ってもらいたい。

私は「なにかある?」と聞いたけど、「なんでもいい」とは言っていない。

言ってないんだけど…

「俺、いつも我慢しとる。」

「それ、は…」

捨て犬みたいな目で見つめてくる雅治は、実はワザとやっているんじゃないかと思う。

だけど、こんな顔を見ると断り切れない。

「はぁ……分かったから、そんな顔しないで。」

「なまえちゃん、好き。」

途端に嬉しそうな顔をした雅治は、なんの前触れもなく私に口付けた。

「ちょっ…こんな所で!」

なんで、情けないクセにやることは大胆なんだろうか。

「なまえちゃん、いいって言うたもん。」

私が抗議しても、雅治は悪びれることもなく、上機嫌で私の手を取って歩き出した。

やっぱり自分は騙されているんじゃないかと隣を歩く雅治を見るけれど、繋がれた手は嬉しいから、それでもいいかなと思う。


(2011.02.03)

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