少し前に彼氏と一緒に買い物に行って選んだ新しい服を身体に当てて鏡を確認する。
(うん、やっぱりこれだよね。)
デートに着て行く服が決まり、制服から着替えていると、玄関のチャイムが鳴ったのが聞こえた。
母親が対応しているらしく話し声がしていた。
しばらくして、廊下から近付いてきた足音が私の部屋の前で止まり、コンコンと軽くドアをノックされた。
返事をしてドアを開けると、そこに立っていたのはこれからデートの約束をしている恋人だった。
「侑士。……なんで? 迎えに来るなんて言ってなかったのに。」
全く予想していなかった彼氏の登場に、私は目をぱちくりさせた。
「まあ、ええやん。」
「う、うん。いいんだけど…」
「デートの時でも良かったんやけど、やっぱり出掛ける前のがええかと思うてな。」
「なにが?」
私が首を傾げると、侑士は後ろ手に隠していたものを差し出した。
「バレンタインのプレゼントや。」
「え、あ……ありがとう。」
綺麗にラッピングされているプレゼントを両手で受け取る。
「どういたしまして。それな、今日の服にも合うと思うで。」
「そうなの?」
そう言われて、早速プレゼントを開けてみることにする。
ラッピングを解いた中から出てきたのは、前に私が欲しいと言っていたネックレスだった。
「侑士、これ…っ」
顔を上げて侑士を見ると、柔らかく微笑まれた。
「前に欲しがってたやろ?」
「うん、ありがとう。…よく覚えてたね?」
あの時は確か、雑誌を見ている私の横で侑士は小説を読んでいたのに。
「なまえんことなら小さいことでも覚えとるで。…付けたるから貸してや。」
「うん、お願いするね。」
渡したネックレスを手にした侑士が私の背中に回る。
邪魔にならないように髪を片側に寄せると、金属のチェーンのひんやりとした感触が肌に触れた。
「出来たで。」
「ひゃ…っ」
露わになっている項に唇が押し当てられて、私はびくっと肩を揺らした。
「可愛えなぁ、なまえは。」
侑士は小さく笑いながら、後ろから私を抱き締めてくる。
「離してよー」
なんだか擽ったくて、侑士の腕の中で身を捩る。
「つれへんなぁ。」
侑士は私の頬に口付けると、そのまま私の肩に顎を乗せた。
「私からもプレゼントあるんだけどな?」
「……そんなら、しゃあないか。」
名残惜しそうに腕を解いた侑士から離れ、私はベッドの上に置いてあったバッグを手にした。
今日のデートの時に渡そうと思い、バッグの中に入れてあったプレゼントの包みを取り出す。
「はい、どうぞ。」
プレゼントを差し出せば、侑士は嬉しそうに笑って受け取ってくれた。
「ありがとうな。開けてもええの?」
「もちろん。」
気に入ってもらえるか少し不安になりながら、侑士がラッピングを解いていくのを見守る。
「へぇ…ええやん。気に入ったわ。」
かなり悩んで選んだシンプルなシルバーのブレスレットは、ちゃんと喜んでもらえたらしい。
「つけてあげるね。」
「ああ、頼むわ。」
侑士の手から受け取ったブレスレットを差し出された左手首に付ける。
「おおきに。」
「どういたしまして。…じゃ、そろそろ出かけよう?」
「せやな。けど、その前に…」
言葉を切った侑士が眼鏡を外すのを見て、私は背伸びをして侑士の唇に自分のそれを触れさせた。
「やられたわ。」
「気に入らなかった?」
「いや、全然。大歓迎やで。」
私の腰を抱き寄せた侑士が少し身を屈め、柔らかく唇が重ねられる。
「デートの時間、なくなっちゃうよ。」
「分かっとる。もう少しだけ、な。」
少しでは終わらないだろうなと思いながら、私は触れるだけの口付けを繰り返す侑士の首に自分の腕を回した。
(2011.02.05)
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