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※こちらを元にした財前の長編「ひとめぼれ」があります。

春休みが終わり、俺は2年に進学した。
クラス分けが張り出されている廊下には、すでに多くの生徒が集まっていた上に騒がして鬱陶しかった。
自分のクラスを確認して教室に鞄を置いてから、俺は人がいないだろう特別教室棟に向かった。
(始業式なんて出ぇへんでも困らんしな。)
静かな廊下に自分の足音だけが響く。
ふと立ち止まり、中庭に目をやれば、一本だけある桜の木が満開を迎えていた。
舞い落ちる薄紅色の花びらに気を取られていると、視界の端で何が動いた。
そこで初めて、桜の木の傍に誰かが立っていることに気が付いた。
(転入生か?)
見慣れない制服に身を包み、咲き誇る桜の花を見上げていた彼女は、不意にこちらを向いた。
俺と目が合った彼女は少し驚いた様子で数回まばたきをした。
そして――
微笑んだ。
とても柔らかく。
ひらりと散った花びらが彼女の髪を飾った。
どこか現実感の欠けた邂逅に、彼女は春そのもののようだと、浮かされた頭で思った。


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