私を拒まないで下さい | ナノ

ヒロイン視点


私が日吉くんと距離を置くようになって1週間ほどが経った。

何も変わらない。

変わるはずもなかった。

もともと特別に仲が良かったわけでも悪かったわけでもない。

私が勝手に気にかけていただけで…

ぼんやりと窓の外に視線をやって風で形を変える雲を見ていると、隣でイスを引く音がした。

「おはよう、日吉くん。」

「…ああ。」

短く一言だけ答える日吉くんもいつもと同じだ。

いや、今日は少し顔色が悪い気ようながする。

気になって横顔をじっと見ていると、不快そうに眉を寄せた日吉くんが私を見た。

「何だよ。」

「ううんっ、なんでもないよ。」

イライラした口調の日吉くんからあわてて視線を外した。

けれど、どうしても気になってちらりと隣を盗み見ると、やはり日吉くんの顔色は優れない。

でも、本人はそれを隠そうとしているみたいで、私はどうしていいのか分からなかった。



結局、何もできないまま部活の時間も終わってしまった。

体調が悪いはずなのに、今日も残って自主練習をしている日吉くんが心配で、私は部室に残っていた。

私にできることなんて何もないのに。

それでも、このまま帰る気にはなれない。

「なにしてるんだろ、私。」

自分を嫌っているだろう人を勝手に心配して…独り善がりにもほどがある。

「っ、……嫌われて…」

胸に鋭い棘が突き刺さる気がした。

自分の言葉に自分で傷付くなんて、バカだ。

だけど…

「やだよ……嫌われたく、ない…」

俯いた視界が揺れ、涙が頬を伝って落ちた。

「好き……好きなの、日吉くん…」

私の震えた声はむなしく空気に消えた。



しばらく泣いてしまったけれど、誰も来なかったのが幸いだ。

目元を冷やすために当てていた濡れタオルを離して、鏡で自分の顔を確認する。

まだ目は赤いものの、そこまで目立たないようで少し安心した。

そして、泣いたせいだろうか。

私の気持ちは少しだけ浮上していた。

あんなに悩んでいたのに。

こっそり様子を見るくらいは許されるだろうかと考えてしまう。

しつこい自分に呆れながら、私はテニスコートへ向かった。



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