私を拒まないで下さい | ナノ

日吉視点


「随分と余裕が無さそうじゃねぇか、日吉。」

部室を後にしてコートに戻ってきた俺に声をかけたのは、いつもならこんな時間には居ない筈の人だった。

「何がです?」

意味ありげな表情の跡部さんに、努めて冷静に返す。

「とぼけるのなら、それでもいいが…後悔することになるぜ?」

「話が見えませんが。」

この人は一体何が言いたいのか。

「そんなんじゃ、横から掻っ攫われるって言ってんだよ。みょうじを気に入っているのは何もお前だけじゃねぇからな。」

「!!」

瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。

つい今しがた見たばかりの光景が、脳裏に甦る。

「フッ…良かったな、日吉。もし俺様が相手だったら、お前に勝ち目は無ぇからな。」

全部分かっているのか、この人は。

「それで、お前はいつまで逃げる気だ?」

「! 誰がっ 何から逃げているって言うんです!?」

聞き捨てならない台詞を言われ、一気に頭に血が上る。

とても冷静じゃいられない。

「逃げてんじゃねぇか。自信が無いから、あいつを遠ざけてんだろ? くだらねぇな。」

「あなたに…何が分かるんですか。」

声こそ抑えているが、怒気は抑えられない。

「分かる気なんざ無ぇよ。俺様なら、欲しいものは全て手に入れるからな。」

「…俺は、あなたとは違います。」

無意識に握り締めていた手にさらに力が籠り、爪が手の平に食い込む。

「それは…お前が俺よりも劣っているという意味か?」

「そんなことはない!!」

我慢出来ないことを言われ、ついに吠えた。

「口で言うのは簡単だな。」

「っ、……」

冷めた目で俺を見る跡部さんを、俺はただ睨み返すしか出来なくて、奥歯をきつく噛み締めた。

悔しい。

この人を越えたいのに。



「っ、……くそっ…!」

ぶつけどころの無い感情を振り払うように、闇雲に練習に打ち込む。

しかし、乱れた精神状態でまともな練習になる筈もなく、いたずらに時間だけが過ぎてゆく。

でも、それで良かった。

とにかく今は何も考えたくなかった。



「チッ…」

少し休憩しようとしたところで、ドリンクもタオルも無いことに気付く。

いつもはみょうじが勝手に持って来ていたから。

だから、さっき部室まで自分で取りに行ったんだ。

でも、みょうじの隣には忍足さんがいて、親密そうな雰囲気がしていて――

「何を考えているんだ、俺は。」

くだらない思考に飲まれる前に、俺は練習を再開した。



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