私を拒まないで下さい | ナノ

ヒロイン視点


残って練習をしている部員以外は帰ったので、私は部室の片付けをしていた。

開けた窓から生暖かい風が入ってきている。

「うわ…っ なまえちゃん、暑くないん?」

部室のドアを開けて中に入ってきたのは忍足先輩だった。

「暑いですけど、クーラーはあまり好きじゃないので。」

「まぁ、さほど身体に良いもんでも無いからなぁ。」

話しながら、忍足先輩は自分のロッカーを開けた。

「忘れ物ですか?」

「ああ、ちょっとな。……お、あった。」

すぐに目的のものを見つけたらしい忍足先輩は帰らずに、棚の整理をしている私の隣に立った。

「なまえちゃん、日吉と喧嘩でもしたん?」

そう聞かれ、思わず手を止めて隣の忍足先輩を見上げる。

「いつもより全然話してへんやろ。」

さすがに分かりやす過ぎただろうか。

「いつもだって、そんなには話してませんよ。それに……私は近付かない方が良いんです。」

どうしても沈んでしまう声と共に、自分の足元へと視線を落として、忍足先輩から目をそらす。

「何で、そんなん……日吉に何か言われたんか?」

「いいえ、違います。でも、今日は日吉くん、調子が良さそうだったじゃないですか。だから、これで良いんです。」

自分に言い聞かせるように、努めて明るい声を出す。

「自分はそれでええんか? ホンマに?」

妙に深刻そうな忍足先輩に、なんとかにっこりと笑って見せる。

「もちろんですよ。」

だって、私の気持ちよりも大事なのは――

「なまえちゃん、…」

忍足先輩は、なぜか言いかけた言葉を飲み込んだ。

「どうしたんですか?」

「…いや、何でもないわ。」

複雑そうな表情をする忍足先輩は、もしかして私の秘めた気持ちに気付いているのだろうか。

「ホンマに気にせんとき。」

伸びてきた手に優しく頭をなでられる。

「…はい。」

その時、またドアが開く音がして、私は入り口のほうを見た。

「日吉、くん…」

私と目が合った日吉くんは何も言わず、さっと身を翻していなくなってしまった。



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