私を拒まないで下さい | ナノ

日吉視点


「クソッ…」

辺りは薄暗くなり始めており、自分以外に誰もいないコートに立ち尽くす。

みょうじを追い返してから、また調子が出ない。

あいつがあんな顔をするから。

いや、そうさせたのは俺だ。

(違う、俺には関係ない。)

どうして、みょうじのことを考えると、こうも平静でいられないのか。

その理由は分かっている。

だが、俺がみょうじを想うことには何の意味も無い。

俺にはテニスが最優先なのだから。

こんな感情は妨げになるだけだ。

その証拠に、今も調子を落としているじゃないか。

この感情は消してしまわなければならない。

俺は一人でいい。

一人がいい。

他人に関わって、左右されたくない。

強くならなくては、あの人を倒せないんだ。


● ● ●


次の日になって、なぜかみょうじは俺に近寄らなくなった。

元々それほど話しかけられていた訳じゃないが、今日のみょうじは明らかに俺に対して距離を取っているのが分かった。

その理由は分からないが、これでいい。

俺が望んでいたことだ。

他のマネージャーからドリンクとタオルを受け取り、ベンチに腰を下ろす。

タオルを頭から被り、地面へと視線を落とした。

熱い空気が身体に纏まり付くようで不快だ。

流れた落ちた汗が地面に染みを作っていく。

上がった体温はすぐに下がりそうもない。

疲れた身体を休ませていると、目の前の地面に影が差した。

気になって顔を上げれば、俺が倒すべき相手と目が合った。

「何ですか、跡部さん。」

「今日は調子が良さそうじゃねぇか? それがいつまで続くか見物だな。」

「どういう意味ですか、それは。」

目の前に立つ跡部さんを下から睨み付ける。

しかし、跡部さんは俺の問いには答えず、ただ嗤った。



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