私を拒まないで下さい | ナノ

ヒロイン視点


空になったドリンクボトルを洗いながら、先ほどのことが頭をよぎる。

「なまえちゃん、どうしたの?」

ついため息をこぼしてしまい、横で一緒に洗いものをしている先輩マネージャーに声をかけられた。

「先輩。その……私、また日吉くんを怒らせてしまったみたいで…」

「あー……気にすることないわよ。いつもの事じゃない。日吉が不機嫌そうなのは。」

「…確かに、日吉くんが機嫌良い時なんて見たことないですけど。……でも、私…嫌われているような気がして…」

思い当たる節はないけれど、何かしてしまったのだろうか。

「きっと考え過ぎよ、…ね?」

「……そう、ですよね。」

余計な心配をかけてはいけないと思い、無理矢理に自分を納得させて笑顔を返す。

「そうそう、気にしないで。……よし、終わり! そっちは?」

「はい、私も終わりました。」

「じゃ、戻りましょう。」



「これで終わりかな。」

部室のそうじを終えて一息つくと、不意に日吉くんのことが頭をよぎる。

今日はずいぶんと調子が悪そうだった。

集中力を欠いているようで、彼らしくないミスが目立っていた。

何かあったのだろうか。

体調が悪そうな様子はなかったのだけれど。

私が勝手に心配しても仕方のないことだとは分かっている。

でも、少し神経質なきらいがある日吉くんは、ともすれば繊細そうで心配になってしまう。

「それこそ余計なお世話、だよね。」

「でかい独り言だな。」

突然した声に驚いてドアのほうを見れば、いつの間に入ってきたのか、首にタオルを掛けた日吉くんが立っていた。

「日吉くん…。」

「着替えたいんだが。」

何となく、日吉くんの声が刺々しく聞こえる。

私の気にし過ぎなのか、それとも――

「ご、ごめんね! 今、出て行くから。じゃあ、お先にっ」

部室を出て足早に歩いていると、だんだんと気分が落ち込んできた。

「っ、…やだ。こんなこと、ぐらいで…」

じわりとにじんできた涙をあわてて手で拭った。



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