私を拒まないで下さい | ナノ

日吉視点


視界の端にみょうじの姿を捉える。

2年になって同じクラスになったみょうじのことを、俺はあまり認識していなかった。

ただのクラスメイトの一人でしかなかった。

だから、最初の席替えの時も――


『日吉くん。隣、よろしくね。』

『……ああ。』

控えめに笑ったみょうじに、俺は無愛想に返しただけだった。

しばらく後に、みょうじがテニス部のマネージャーをやっていることを知った。

そして、俺が正レギュラーになる少し前にみょうじは正マネージャーになっていた。

でも、そんなことはどうでもよかった。

俺には何の関係もないことだった。

それなのに、みょうじがあんなことを言うから、俺は――


「日吉! 何ボサッとしてやがる!」

「っ…すいません!」

跡部さんの鋭い声で我に返った。

(試合中に何を考えているんだ、俺は。)

こんな補欠相手にポイントを取られるなんて情けない。

「クソッ…」

俺はラケットを握り直し、試合に集中した。



「ったく、激ダサだな。しっかりしろよ、若。みっともねぇ。」

練習試合を終えてコートを出ると、宍戸さんに叱咤された。

「分かってますよ。」

結果的には勝ったが、たかが補欠相手に1ゲーム落としたのだから、言われても仕方がない。

だが、分かっていることをわざわざ他人に指摘されるのは面白くない。

「まあまあ、宍戸さん、誰だって調子が悪い時はありますよ。なあ、日吉?」

「鳳、余計な世話だ。」

執り成そうとする鳳に対しても、俺は苛立ちを隠そうとはしなかった。

「日吉くん、お疲れさま。…はい。」

「フンッ」

「あ…っ」

気まずそうにタオルとドリンクを差し出すみょうじから、俺はそれらを乱暴に取り上げた。

「日吉、女の子には優しくせなあかんで。」

こちらに歩いてきた忍足さんを無視し、その場から離れる。

「あんま気にせんとき、なまえちゃん。」

みょうじに話し掛ける忍足さんの声を背中越しに聞いた。

苛々して仕方がない。

元はと言えば、みょうじがここにいるから悪いんだ。



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