私を拒まないで下さい | ナノ

日吉視点


「はい、日吉くん。お疲れさま。」

「ああ。」

いつものようになまえからタオルとドリンクを受け取る。

「…何だよ?」

「うん、今日も調子良さそうだなって。……それとね、カッコよかった。」

「フン…当たり前だろ。」

はにかみながら微笑んだなまえが小声で付け足した言葉に内心では少し動揺したが、冷静を装って返す。

「な、何だこの甘い雰囲気は…っ クソクソ生意気だぞ、日吉のクセに。」

「ここだけムダに暑い気ぃするわ。」

「僻んでも、みっともないだけだと思いますが。」

悔しがっている向日さんと呆れている忍足さんを横目で見遣る。

「な、何だとっ」

「先輩に対してその言い草は無いやろ。」

「日吉くん、そんな言い方…」

「ついこの間まで馬鹿みてぇに悩んでた奴の台詞とは思えねぇな。」

「っ、…跡部さん。」

「あのっ! みなさん、ケンカはだめです!」

一人おろおろするなまえは俺と先輩達の間に割って入った。

「大丈夫やで、なまえちゃん。喧嘩なんてせえへんって。」

忍足さんが笑ってなまえの頭を撫でるのを見て、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。

「日吉、お前も苦労するな。」

「何がですか。」

明らかに面白がっている様子の跡部さんを軽く睨むが、意味がないのは分かっている。

「あ、あの、ケンカは…っ」

「そんなんじゃねぇよ。」

跡部さんはやけに優しくなまえに言うと、険悪な雰囲気に戸惑うなまえの頭を撫でた。



「日吉くん、どうしたの? …機嫌、悪い?」

「誰の所為だと思っているんだ?」

帰り道、苛立ちを隠せない俺の数歩後を付いて来るなまえを振り返る。

「えっと……私のせい、なの? 私、何かしちゃったかな?」

「とりあえず、…」

眉尻を下げて所在無さげにしているなまえの手を取って、横に並ばせる。

「隣を歩け。」

「う、うん。」

「それから、他の男に簡単に触らせるな。お前は危機感が無さ過ぎる。」

先輩達は本気じゃないが、俺が面白くないことには変わりないし、何より今後が心配だ。

「そうかな…?」

いまいち分かっていないなまえの様子に、溜息が出そうになる。

「そうなんだよ。」

「…よく分からないけど、気を付けるようにするね。……あの、ね…」

「何だよ。」

口籠もるなまえを横目に見れば、何故か顔を赤くしていた。

「私が好きなのは……若くん、だけだよ。」

「っ、…いきなり何言ってんだ!」

不意打ちに照れた俺を見て、なまえは赤い顔で笑った。

どうやら俺は、この先もなまえに振り回される事になるらしい。



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