![]() ![]() ヒロイン視点 テニスコートに倒れている姿を見て、心臓が止まるかと思った。 誰かを呼ぼうにも周りには人影がなくて、だからといって日吉くんを置いて校舎まで戻るのはためらわれた。 それで、どうにか一人で日吉くんを背負って部室に運び込んだ。 少し様子を見てから校舎に残っている先生を誰か呼んで来ようと思っていたのに、私はいつの間にか眠ってしまっていた。 そして目を覚ましたら、日吉くんは起きていて―― 日吉くんから告げられるだろう拒絶の言葉を待っていた私に、それは降って来なかった。 その代わりに、身体に伝わる温かさで、日吉くんに抱き締められたのだと分かったのは数秒経ってから。 「どう、して…?」 日吉くんの身体が、背中に回されている手が、震えているのを感じる。 「そんなこと言うな。…言わないでくれ。」 身体と同じように震えた声で紡がれる日吉くんの言葉。 「俺は、本当は……お前が好きなんだ。だから…俺の傍にいてくれ。」 「……ほんとう、に…?」 自分の耳に届いた言葉が信じられなくて、聞き返してしまう。 ゆっくりと身体を離した日吉くんは、私の目をまっすぐに見つめる。 「俺はテニスで、跡部さんに勝ちたい。」 「…うん、知ってる。」 「だから、それ以外のことは考えないようにしていた。…でも、駄目だった。お前のことを忘れようとしたけど、そんなのは無理だった。」 はっきりと言葉で形にされた気持ちが嬉しくて、涙が溢れる。 「…っ、……私も好き。だから、…日吉くんのこと、ずっと心配だったの。」 目元を指先で拭い、日吉くんを見据えて、もう一度言う。 「私、日吉くんが好き。日吉くんのそばにいたいの。それで…日吉くんのこと支えたい。」 「ああ…ありがとう、な。」 今まで見たこともない柔らかい表情の日吉くんに、もう一度そっと抱き寄せられた。 また涙が溢れてしまって、日吉くんのユニフォームを濡らしてしまう。 日吉くんの背に手を回して抱き締め返すと、痛いくらいに抱き締められた。 少し苦しかったけれど、すごく嬉しかった。 「なまえ。」 初めて私の名前を呼んでくれた日吉くんの声は静かなのに、胸が震えた。 「好きだ。」 「っ、うん……ありがとう。…私も、日吉くんが好きだよ。」 自分からも日吉くんに強く抱き着いて、その胸に顔を埋めた。 伝わってくる日吉くんの鼓動は私と同じで少し速くて、それが私を安心させてくれた。 ← |