どれだけ後悔した所で、
目の前で静かに眠る君が、
起きるはずなないんだ。



高校の寮は、幼なじみのアヤたんと二人。
異性の君とは同じ寮には住めなくて、君は泣く泣く離れた女子寮からここまで遊びに来る。
君のルームメイトを含めた四人で遊ぶのが、高校入学から続けていること。
俺は剣道部に入っていて、一人だけ遊べなかったりする。
そういう日は、先に三人で集まって、俺だけ途中参加なんだ。
いつも通り盛り上がるけれど。
俺がいなかった時間が、すごく寂しくて。
三人が、俺のいない時間に盛り上がった話題に触れる度に、説明してくれる。
その何気ない優しさが、少し棘が刺さって。

アヤたんと君のルームメイトは、そんな集まりを通して付き合うようになった。
俺も、ずっと君が好きだった。
それから集まりは、アヤたんと君のルームメイトを通じて決めるようになった。
アヤたんのケータイに、君のルームメイトから電話が来たり、
アヤたんのケータイから、君のルームメイトに電話をしたり。



その日は、朝から聞き慣れた着メロが机の上から響いた。
君のルームメイトから。
アヤたんのケータイに。
アヤたんは脱衣所で用意をしていて聞こえていない。
いつもなら俺が取っていた。
よくある事だし、そのまま俺が話しながらアヤたんにケータイを渡せばいい。

俺は、その日は一日部活だった。
また俺だけ遊べない。
また途中参加だ。
俺ばっかり。
やだな。
どうしていつも俺ばっか。
部活をやってるんだから仕方ないけどさ。
たまには、いいか。
どうせ皆は集まるんだから。
どうせ俺は途中参加なんだから。

無視したって。
少しくらいいじわるしたって、いいだろ。
俺は遊べないんだし。
いいや。
初めて、俺はそれを無視した。


あの時、無視なんてしなければ。
なにか変わっていたのかな。
変わるはずなんて、ないけれど。



午前練を終わらせた俺は、昼飯を忘れた事に気付いて寮に戻った。
そこにはアヤたんがいて。
忙しそうに電話をしていた。

何故かそこにはカツラギ先生もいて。
落ち着きがなくうろうろと部屋を歩き回るアヤたんに代わって、カツラギ先生が俺に説明をした。
『ヒュウガ君のお友達の、  さんですが…』
『何。  がどうかしたの』


亡くなったそうですよ。


殴り飛ばそうかと、本気で思った。
確かに君はどちらかと言えば病弱だった。
でも、だからって。
『そんな冗談信じないよ』
『冗談じゃありませんよ』
『はいはい』
未だに、あっさりと告げた先生を、少し恨んでる。
先生を恨んでどうにかなる訳じゃないけど。
『ヒュウガ』
『アヤたん、何あの教師。あんな笑えない冗談言わせる為に連れて来たの?』
『事実だ』
もう、消えてしまえばいいと思った。
何もかも。
『今朝あいつから電話があってな。私もお前も気付かなかったようだが…』
気付いた。
俺、その電話知ってる。
『  はあいつの家に止まっていたらしくてな。明け方急に、だそうだ。あの電話は病院に着いた時にかけていたらしい』

じゃあ、なんだ。
俺があの電話を無視しなければ。
君の最期に立ち会えていた?
そんなのを見て何になるんだと思う。
けれど。
『行くぞ。制服に着替えろ』
『ああ…うん』
放心状態で、ジャージから制服に着替えた。
ははっ。
何だよ、俺。
何だよ、これ。
ほんっと、馬鹿、みてぇ。



棺桶に収まる君は驚くほど綺麗だった。
したこともない化粧をされて、頬はうすピンク、唇も潤っていて、目を覚ますんじゃないかと思った。
涙がこみ上げたけれど、君の母親が泣きじゃくっているのを見て、違うと思った。

俺が泣くんじゃない。
暫くしてから、俺も君に触れに行った。
ピンクに彩られた頬に、右手の甲を添える。
驚くほど、冷たくて。
思わず引いてしまった手を胸に当てると、鼓動は感じなかった。
もう一度、手を君の頬に当てる。


冷たい。


冬、冷たくなった肌とか、
夏、冷やしすぎた肌とか、
そんなのじゃない。
冬の君は氷みたいに冷たいけれど、違う。
人間は、こんな冷たさにはならない。
無機質な、そう、機械を触っているような………
涙が、こらえられずに、瞼から滑り落ちた。

一度落ちたらもう止まらなくて。
君の頬に手の甲を押し付けたまま、俺は泣き崩れた。


例えば。
俺があの電話に出ていて。
病院に駆け付けた時まだ君が生きていて。
話し掛ける事が出来たのなら。
君は、生きる事が出来ただろうか。
少しでも、長く。
君は最期に何を考えたんだろう。
沢山、色んな事を考えた、でしょ。
その中に、
一瞬でもいいから、
俺がいたらいいな、とか。
ああ……。
あの電話に出ていれば。
もうすぐ君がいなくなって一年と半年。
まだ墓参りはしてない。
骨を納めさせてもらったけど、あんな白いものは君じゃない。
墓参りに行けば、もう、戻れない気がして。

今でも、皆で集まっているよ。
君の話もしてる。
笑い話だよ。
テストの点数とか、君のルームメイト、俺達にバラしてるからね?
その度に、馬鹿だなって笑ってる。
君がいない事実は飲み込んでる。
理解してる。
それでも。
コップをテーブルに並べたりだとか、
そんな些細な時に感じる違和感。

『あれ、  は?』
飲み込む言葉。
言い掛けて、熱いものがこみ上げる。
それだけの、すごく、すごく些細な出来事で。
いちいち君を思い出して一人落ち込んで。
あの電話を後悔する俺は、臆病者?
過去を引きずる、ウザい男?
それでも、一年半という時間は悲しみを風化させるには充分すぎる長さで。

忘れたくない。
忘れるくらいなら、一生この悲しみに付きまとわれていたい。
そんな俺の想いをぶち壊す。
ふとした瞬間に君を思い出して、
今まで忘れていた自分に腹が立つ。
忘れたくない。
やめてくれ。
忘れないと、生きていけないのは、分かっている。
それでも俺は……。



同級生に、聞いたんだ。
『カミサマって、信じる?』
そいつはさも当然と言ったように頷いた。
そして、俺に答えを求める。
『いる訳ないじゃん』
いたのなら、どうして君を?
どうしてテレビの向こうの誰かじゃなくて、君を選んだんだ?
『俺は、たとえこの目で見たとしても信じないね』
天国も地獄も信じてなかった。
魂だとか、生まれ変わるだとか、なにも。
前世とか後世の話をしてる君を見て、馬鹿らしく思っていた。

今も信じてないよ。
でも。
『もしも、本当にカミサマって奴がいたとして』
少しくらい、望みはある。
『俺の願いを叶えてくれるなら』


どうか。
もう一度。
  に逢わせて。


まだ君の冷たさがこびりつく右手の甲に、
爪を立てる。
思い出してしまった君の体温を痛みで上書きして消すように。
一年半も経ってるのに。
悲しみは風化しても、甲にこびりついた無機質な冷たさは、

いつまでも消えないんだ



・・・
事実を元にしたフィクション小説第1弾!
ほぼノンフィクションですw
七霊のヒュウガさんに私の役をやってもらいます!!





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -