捧げ物 | ナノ


▼ 03

「わ、雪ですよっ」
「ほんとだ。ななし、寒くない?」
「へーきです。ヒュウガさんにくっついてますから」

デートからの帰り道。
ヒュウガさんの運転するホークザイルの後ろに座って、彼の背につかまる。

「そっか。じゃあよかった」
「この年になっても楽しいものですね。遊園地って」
「そうだね。なんか子供に戻ったみたいだよ!!!」
「ヒュウガさんは戻らなくても大丈夫でしたね」
「酷いなぁ」

久しぶりのデートは、遊園地へ行った。
はしゃぐヒュウガさんが、すごくかわいくて。
遊園地にして良かったと思った。

「…あのさ、ななし」
「はい??」

話し掛けておいて、ヒュウガさんは黙ってしまった。
もしかして、呼んだだけ??
すぐそうやっていじわるする。
私は、この寂しさを誤魔化す為に彼に抱き付く腕に力を込める。
デートが楽しかった分、帰りの気分が重い。
最後まで楽しみたいけど、やっぱり寂しいものは寂しい。
次のデートがいつかなんて分からないし。

「やっぱりさ、玄関とリビングは広い方がいいと思うんだよね」
「え?」
「おっきいリビング!!フローリングは明るい色がいいな。でかくて薄いカッコいいテレビと、ふかふかのソファ置いて。キッチンは、ななしが毎日ご飯作るのが楽しくなるようなのがいいね。風呂も大きいのがいいなぁ」
「えと、ヒュウガさん?どうしたの?」
「高層マンションの最上階ってのもいいけど、やっぱり一戸建てかな。住宅地でさ、あんまり豪華にしすぎずに。あったかい感じの家」

何の話だろう?
急にどうしたの?

「…分からないの?」
「分かりませんよ!!私、鈍感ですから言ってくれないと分かりません」

彼は人のいない真っ暗な道でホークザイルを止めると、向かい合わせになるように座った。

「だからさ…。ななしに、俺の帰る場所になって欲しいんだよ」
「それは、告白の時に聞きましたが?」
「もう、どうしてこの子はこんなに鈍感なのかなぁっ」

そんなの私に聞かれても困ります。
私が鈍感なのは生まれつきですから。

「…ポケット見て」

ヒュウガさんに言われた通りに、ポケットの中を探る。
指先が、何か冷たいものに触れた。
それを、そっと取り出す。

「ヒュウガさん、これ…」
「結婚、して欲しい」

銀色に煌めく指輪。

「えっと、その、さ。今日がちょうど10年目だし、いい区切りかな、と…。それに、その、ななしを、俺だけのものに…。ずっと、死ぬまでななしといたいから」
「…………っ」

ぽろ、と涙がこぼれた。
今日が記念日なのは知ってた。
でも、ヒュウガさんは何も言わないし、変に言うのも、細かい女だと思われたくなかったから。
言わなかった。

「え、ななし!?い、嫌だった!?その、嫌なら嫌で断ってもいいんだよ!?」
「…ヒュウガさんも鈍感です。嬉し涙、ですよ」
「………その、ヒュウガさんってやめて。敬語も取りなさい。これからは、奥さんなんだからね?」
「ヒュウガ……大好き」
「俺も。ずっと、傍にいて」










帰る場所
(俺の帰る場所)
(私の所へ帰ってきてね?)










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