▼ 02
「ななしーっvv」
「わっ!!ひゅ、ヒュウガさん。驚かさないで下さいよっ!!」
振り返ると、ひひっといたずらっぽく笑う彼。
ヒュウガさん。
あの恐れられているブラックホークの少佐。
同じ軍人でも邪魔なら容赦なく殺してしまう……らしい。
「今日も抜け出して来たんですか?」
「だってデスクワーク面倒なんだよ!!疲れたからななしに会いに来たんだ」
「もう。またコナツ君に怒られますよ?」
「う"…」
私の営む甘味処は、お客様が極端に少ない。
従業員も、私を含めた二人。
接客は私一人。
こうして彼に抱き付かれながら話せるのも、お客様が今はいないから。
お得意様しか来ない、知る人ぞ知る名店(ヒュウガさん談)。
「何か食べますか?それとも珈琲ですか?」
「ななしちゃん。もいっこ足りないよ??」
「へ??」
足りない…?
私、何か忘れてるかな…!?
「ここはさ?
『何か食べますか?それとも珈琲ですか?それとも、ワ・タ・シ??vv』
って!!そしたら俺即答でななし食べるーvvv」
カランコロン
「いらっしゃいませー」
「ねぇ無視!?」
お客様が来たので、ヒュウガさんを椅子に座らせて対応する。
「団子を二つ」
「分かりました。今日はお一人なんですか?」
「ああ。急にここの団子が食べたくなってね」
その後、一言二言話して、厨房(と言える程大きくないけど)に引っ込む。
そして、もう一人の従業員である兄に注文を伝えた。
「ヒュウガさんはどうされますか??」
「今日はななしを食べに来たんだよ☆」
「今、いい果物が手に入ったのでパフェがオススメですよ」
「うん…。それもらうね…」
「はーい」
再び厨房へ。
先にお団子を貰い、常連さんの一人のお爺さんに渡して、ヒュウガさんの所へ戻る。
「ななし」
「はいっ」
兄からパフェを受け取って、ヒュウガさんの前に置いた。
「おーっ!!美味しそうっ」
「でしょ?」
瞳をキラキラさせてパフェをつつき始めたヒュウガさんを、隣に座って眺める。
やっぱり、かわいいなぁ。
甘いもの食べてる時のヒュウガさん。
「…そうだ!!ねぇななし、あーんしてvv」
「??」
「間違えた。食べさせてvvあーんさせて、だ」
あーんして、って言うから口を開けたら違うと言われた。
そうだよね。
「っていうかどうしてですか?もう自分で食べ始めてたのに」
「ななしから貰った方が美味しいじゃん?」
いや、私からあげなくてもそれは美味しいパフェですよ??
「いーから!!」
「分かりました。貸して下さい」
「やりぃーvv」
スプーンでソフトクリームをすくう。
ん、美味しそうだな。
「あーんっvvvv」
身を乗り出して口を開けるヒュウガさんではなく、私はスプーンを自らの口に入れた。
「んーっ。美味しいっ」
「ななしっ??」
ついでに林檎も食べる。
バニラにも、意外と合うなぁ。
「はい、あーん」
「はむっ」
私が食べさせてあげると、ニコニコと嬉しそうに笑った。
「うんっvvこっちのが美味しく感じるっ」
その笑顔につられて、私も微笑む。
ヒュウガさん、どうしたんだろう??
何かあったのかな。
なんだか、その元気が空元気な気がする。
「…私はあなたの『帰る場所』ですからね??」
「へ?あ…いや。これはその、悩みとかじゃないから大丈夫!!」
その顔に、嘘を付いてるのは感じない。
本当に悩みではないようだ。
よかった…。
「明後日さ、休み取れたんだ。久しぶりにデート行こうか。どこに行きたい?ちょっと遠出してみたい気分なんだ。場所、幾つか候補あげておいてね。明日決めよう。じゃあねっ。今日はそれを伝えに来ただけなんだっ!!」
「少佐!!早くして下さいっ!!!!」
食べ終わったパフェの入れ物を私に渡すと、手を降って彼は出て行った。
外から、先程も聞こえた男の子との会話が聞こえる。
「少しだと言ったのに!!どれだけ時間をかけるんですか!!!」
「もー、コナツは堅いなぁ。彼女に会いに行って要件伝えてバイバイなんて出来ないよ」
「普段の行いが悪いからですよ!!!」
「はぁ…。もうちょっとななしといたかったなぁ」
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