捧げ物 | ナノ


▼ 03

「何をしている?」
「っ!??」

急に後ろから投げかけられた言葉に、思わず肩が跳ね上がる。
聞き慣れた低音。

「あ、アヤナミ様……」
「仕事をサボって何をしている」

どうしよう。
怒られるかな。
書類をアヤナミ様の代わりに提出して、帰りになんとなく中庭を通ってみたけど…。
間違いだったかもしれない。

「何をしていると聞いているんだ」
「えっと、ですね…。これ……を、見てました………」

殺気が向けられたから正直に答える。
太陽の光が当たってキラキラ光る、蜘蛛の巣。
そこに引っかかった蝶。
紫がかった黒色の羽。
逃がしてあげようと思ったけど、チビな私じゃ届かなかった。

「アヤナミ様、逃がしてあげてくれませんか?」
「何故私が」
「私じゃ身長足りないんです」

ため息をついて、アヤナミ様はその蝶を見る。

「ジャコウアゲハか」
「じゃこうあげは??」

アゲハ、なんだからこの蝶の名前なんだろうな…。

「逃がす必要はないぞ」
「え、どうしてですか!!」
「こいつは毒蝶だ」

毒蝶??
毒を持ったちょうちょ、かな。
だからどうだっていうの??

「見てろ」

アヤナミ様が言って、紫の瞳の視線を辿る。
そこには、初めて見る大きさの蜘蛛。
………で、でかっ!!

「た、助けないと!!」
「大丈夫だ。黙って見ていろ」
「ぅー……」

それでもなんとなく不安で、アヤナミ様の軍服の袖を掴ませてもらった。
ていうか、でかい。
蜘蛛すごいおっきい!!
めっちゃ怖いよーっ!

「こんなでかい蜘蛛、珍しいな…」
「あぅー。鳥肌がぁー…」

怖い。
蜘蛛怖いぃー!

「ほら、見ろ」

促されて視線をやると、蜘蛛がまさに蝶を食べようとする所。
目を反らしたかったけど、見ろ、と再度言われたので仕方なくそのまま見る。

「あっ」

蝶に噛みつく蜘蛛。
直後、蜘蛛はせっかく捕まえた蝶を逃がしてしまった。

「え……」
「言っただろう。毒蝶だ、と」
「毒蝶って、どういう?」

蜘蛛は、蝶を吐き出しただけでけろっとしてるし…。
死にそうな感じはしない。

「こいつらは毒を持っている。殺すのではなく、自分を吐かせる」
「へえ…」

そういう毒もあるんだ。
すごい。

「あ…」

ジャコウアゲハは、ひらひらと舞って、アヤナミ様の帽子にとまった。
綺麗。

「…………」

じっと見上げていたら、アヤナミ様が手を上げた。

「あっ?」

払っちゃうのかな、とか思って勿体なくなった。
こんな綺麗なのに。

「……」

アヤナミ様は、蝶が逃げないようにそっと帽子を外すと、私の頭に乗せた。
ジャコウアゲハはよっぽどアヤナミ様の帽子が気に入ったのか、そのままとまっている。

「そんなに欲しいのならやる」
「え、でも…」
「そいつが逃げたら帰って来いよ」
「は、はいっ」
「一応言っておくが…。お前の為ではないぞ」
「ふふっ…。勿論ですよ」

ふっ、と笑うと、アヤナミ様は背を向けて歩いていってしまった。
私の為じゃないなんて、嘘ばっかり。

「……ちょうちょとアヤナミ様、すごく似合ってたのになぁ」

夕日に朱く染まる中庭に。
綺麗な蝶を帽子に乗せたアヤナミ様。
絵になる。
そこに私も映っていればな、なんて。










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