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今から10年ほど前。
『ななしに頼みがあるんだ』
雪の降る夜だった。
彼は、ラグス戦争の前線で剣を振るって帰って来た。
『俺の、帰る場所になって欲しい』
疲れ切った顔で、微笑んで。
『ななしの笑顔見ると、安心する』
私は、ホーブルグ要塞の近くで甘味処を営んでいた。
本来彼とは接点のない世界で暮らしていた。
『…ななしが好きなんだ。俺の、彼女になって』
私も、彼に惹かれていた。
仕事をサボりにきた彼。
確か、餡蜜を出したと思う。
『俺、ブラックホークだし、黒法術師だし、辛い目に合わせるかもしれないけど…』
それから彼は、毎回仕事を抜け出して会いに来てくれた。
気付けば、彼が来ないか、待っていた。
『今まで人を殺して来た俺が、人を好きになっていいのか分からないけど…』
確か私は、彼の告白の途中で、彼に抱き付いた。
その鼻掛けのついたサングラスを取り上げて。
『……そんなの関係ない。俺は、ななしといたいんだ』
勿論、返事はイエス。
そして、10年くらいたった。
(帰る場所)
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