▼ おまけ
ゴト、と重たい音がして、目の前に甘夏の入った皿が置かれた。
姿勢を上げると、夏の太陽みたいに眩しい笑顔。
椅子を引っ張って来て、僕の前に座る彼女。
僕と同期で、ずっと主席争いをして来た。
ライバルというか、親友というか。
「甘夏。剥いたから食べよ」
ニッと笑う彼女につられて、僕も微笑んで頷いた。
「っ、酸っぱ!!」
甘夏を口に含めば、独特の甘味と酸味が口内に広がる。
最初に、つん、と酸味がきて、噛む度に甘みが出てくる。
「どーしてさ、こんな変な味なのに美味しく感じて、止まらなくなるんだろう? 」
「確かに。食べ過ぎると舌がピリピリしてきて、それなのに止まらない」
「不思議ー。皮も固くて剥きにくいし」
「毎年毎年、皮剥いてくれてありがとう 」
夏になると、必ず僕らは二人で甘夏を食べる。
勿論皆で食べたりもするけど、最低一回は二人きりで食べる。
そうしないと、夏じゃない。
僕の夏には、彼女と甘夏が必要になっていて。
「どういたしまして」
「…やっぱり、好き、だな」
「うん。あー、酸っぱ!!」
「いや、甘夏じゃなくて」
「うん?」
僕らは同期で、ずっと主席争いをしてきた。
ライバルというか、親友というか。
「ななしが」
恋人というか。
今年も二人で甘夏を食べる。
僕の夏には彼女と甘夏が必要で。
僕には、彼女が必要だ。
今年も、二人で甘夏を食べる。
end.
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