捧げ物 | ナノ


▼ 02

黒法術師ではないけれど、僕らはアヤナミ参謀直属部隊にいる。
僕は黒法術が使えないだけでその家系に生まれている。
けれど彼女は違う。
黒法術とは無縁の場所で生きてきたのに。
僕と一緒にブラックホークに入った。





「っ、酸っぱ!!」

甘夏を口に含めば、独特の甘味と酸味が口内に広がる。
最初に、つん、と酸味がきて、噛む度に甘みが出てくる。

「どーしてさ、こんな変な味なのに美味しく感じて、止まらなくなるんだろう?」
「確かに。食べ過ぎると舌がピリピリしてきて、それなのに止まらない」
「不思議ー。皮も固くて剥きにくいし」
「毎年毎年、皮剥いてくれてありがとう」

夏になると、必ず僕らは二人で甘夏を食べる。
勿論皆で食べたりもするけど、最低一回は二人きりで食べる。
そうしないと、夏じゃない。
僕の夏には、彼女と甘夏な必要になっていて。
そのフレーズの中に、違和感が感じたけど、何かは分からない。
………?

「コナツ、目の下隈が出来てる」
「え!??」
「また徹夜したんでしょ?」
「…提出期限が昨日までの書類が二山あって」
「少佐の?」
「まぁ…。でも、少佐は任務もあったし…」
「任務があるとかないとか関係ないよ!!それでコナツの睡眠時間がなくなるのはおかしい!!」
「いや、でも、なんだかんだでやっちゃう僕も悪い…」
「やらない少佐が一番悪い!!」

ななしは甘夏を一つ口に放り込んでから、爆睡している少佐の所に行った。
そして、おもむろに少佐の両脇にそびえ立つ紙の山から何枚か取り出した。
五センチ程の厚みの束。
それを、
気持ち良いくらいにスパーンと少佐の頭に振り下ろした。

「っぬわ!??」
「寝るな仕事しろ馬鹿少佐!!」
「えななしちゃん!?何々どうしたの!?アヤたんが輝かんばかりの笑顔で俺を待ってたりとか!??」
「どんな妄想ですか!!仕事しろって言ってるんですよ!あなたはコナツの隈を見ましたか!??」
「見たよー。今日は薄い方だよね」

パシンパシンパシンパシンッ
四回、ななしは少佐の頭を叩いた。
いくら紙でも、五センチもあれば結構痛いと思うけどな…。

「薄いとかじゃなくて!!お前の仕事して隈出来てんだろ!自分の仕事は自分でしろッ!!」
「あれ?ななしちゃん口調変わってない?;;本気で怒ってる??;;」
「怒ってる!!!!」
「…じゃあ、仕事自分で終わらせたらちゅーしてくれる?」

は!?
何を言い出すんだ、少佐は。
そんな馬鹿みたいな頼み聞くはず…

「分かりました。コナツに手伝わせちゃ駄目ですよ」
「ほんとに?」
「約束しました。約束破ったら首をはねてもらって結構です」

…………なんだろう、この痛み。
胸が凄く痛い。
何でななしはそんな頼みを承諾したんだよ?
なんだよ、なんか、それ、………何だ?
どうして僕はこんなに焦ってるんだろう?
だって彼女は"ただの"ライバルで親友で同僚で。
別に彼女が少佐とキスしようが僕には関係ない……。
嫌がってる彼女に、少佐が無理矢理しようとするなら、そりゃあ"親友"だし放ってはおけないけど……。
嫌がってないなら別に……。

ななしは少佐の事が好きなのかな?
理由は分からないけれど。
何故か胸の奥が痛んだ。

「よしっ!!コナツ、これで今日はちゃんと寝れるよ!!」
「え、あ…うん。ありがとう」

やっぱり、ななしは少佐の事を好き…なんだろうな。
応援してるよ。
少佐の事は仕事はして欲しいけど尊敬してるし、ななしの事だって、ライバルだし親友だし同僚だし、大切な二人が幸せになるなんて、これ以上の幸せはないよな。
ガリガリと殺気だってペンを走らせる少佐の横で、僕らはまた甘夏を食べ始める。

「あれ、減ってる」
「ななしが少佐の所行ってる間も食べてたからね」
「酷いっ!!コナツのが沢山食べてるじゃんそれ!」
「止まらないんだから仕方ない」
「ずるいーっ!!」

今思えば、ななしは何かと少佐の隣にいたし…。
すでに付き合ってたりして。
そういえば、最近はアヤナミ様とよく話している。
アヤナミ様と少佐は同期だったらしいし、仲の良い(?)アヤナミ様に相談してた、とか…?
僕とななしを繋いでるのはライバルとか親友とか同僚とかの肩書きと甘夏だけ……。

………?
いや、別に繋がりを求めなくたって…。
何だろう。
今日は調子が悪い。
寝不足の所為かな?









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