捧げ物 | ナノ


▼ 03

「君、こんなところで何してるの?」

私はスラム街の出身で、血の繋がる身内なんていなかった。
それだけじゃない。
私は、国から見放されたスラムの人々にさえ見放されていた。
生きる価値のない"モノ"。
死んでも誰も気づかない。
カラス達が喜んで、寄ってたかって死体を綺麗に食べてくれるんだろう。
その程度のモノ。

「へえ。いい目してるね、君☆」

昔からただ利用されて、
好きにされて、
相手が気に食わなければ殺していた。
鬼とか、悪魔とか、色々呼ばれていた。
そんな薄暗い所にいた私に声をかけたのが、例にもれず仕事をサボっていたヒュウガさん。

「こんなところで燻ってるには勿体ないね。俺と一緒に来ない?」

スラムには珍しい、ザイフォンが使えた私。
おかげで文字の読み書きもできた。
数字だってわかったし、計算もできた。
だから色んな人に利用されていた。
私はそれを拒んだ事はない。
利用されていれば、少なくてもご飯はもらえたし、ボロくても寝床はあった。
好きにされていても、なんとも感じないし、その次の日は待遇が少し良くなるから。
でもたまに嫌になって、その団体を全部殺してまたフラフラしていた。

「君は力がある。野心もあるね。このまま一生を過ごす気なのかい?」

この人は、私のそんな能力は見てなかった。
私のもっと深く…黒く染まった心を見ていた。
黒いザイフォン。
私はスラムの生まれで、そのスラムにも仲間はいなかった。
私に知識を与えてくれる人なんていなかった。
だから、ザイフォンは元々黒いものだと思っていた。

「俺も同じなんだ。黒法術師。君なら俺と同じ所に入れる」

そう言って、彼は私に手を差し伸べた。
真っ黒に染まった心を、キラキラと輝かせて。
サングラスの奥にしまった赤い瞳には、私には理解できない気持が燃えていた。
一目ぼれ、っていうやつで。
私はその手をとっていた。
初めて出来た、仲間。

「ブラックホーク。君と同じ、殺されるだけの運命の黒法術師の集まり」

それから彼は色々な説明をしてくれたけれど、何も耳に入らなかった。
ただ、見とれていた。
暗くて、黒くて、孤独な、魂に。
悪魔に魂を売り渡した男の人に。
私も同じだから。
暗くて、黒くて、孤独だったから。

「君は俺と同じ"匂い"がする。だから連れて来たんだ」

そう言っていた。
その通りだと、思う。

「君の気持は痛いほどよくわかるから」

今思えば、

「ほっとけなかったんだ」

彼も、孤独に押しつぶされそうになっていたんだろうな。
淋しくて、寂しくて。
ずっと。
誰か傍にいて、って叫んでたんだ。

「俺達は、俺達でしかわからないものがある」

そう。
孤独は、同じ孤独を抱えた者でしか。

「俺達には力がある。絶対にもっと上へいける。今まで俺達を散々バカにしてきや奴らへ、復讐するんだよ」

復讐、といったその人の横顔は、今でも覚えている。
ゾクリとした。
今までも殺気とかなら受けてきたし、殺されかけてた事だった何度もあった。
でも。
背筋が震えて、冷や汗が吹き出した。
今まで見た事ないくらいの、顔。
それからは一度も見ていないけれど。
普段のヘラヘラした顔からは想像も出来ないくらいの冷たい表情。
それが彼の本当の顔なんだ、って。

「これからは俺が仲間だよ」

ニコッと笑った顔に、綺麗にあの表情は隠されていた。









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