黒木綿×桜 | ナノ


▼ 01

ピリリ
ピリリリ

「遙、ケータイ鳴ってんぞ」
「ほんとだ。ありがと」

ほったらかしにしてあったケータイ。
連勝から手渡されたそれには『思紋さま』と出ていた。

「仕事?」
「だろうね」

ピッ

『久しぶりだな、遙』
「ええ。思紋さまもお元気そうで」
『聞いてくれ!!実は昨日どうぶ○の森でだな…』
「相変わらずリアルが充実してませんね。仕事でしょ?早く済ませたいんですが」
『リアルが充実してないとか言わないでくれ!!儂だって充実したいんじゃ!!』
「はいはい。それで?」

「お年寄りには優しくー」と連勝の声が聞こえたけど無視。

『ああ…。実はな……』

思紋さまから仕事内容を聞いて、思紋さまのゲーム談義が始まる前に通話を切る。
ごめん、思紋さま。
でも私はリアルが充実してるから。

「いつもながら、思紋様も可哀想だな」
「私は早く仕事を済ませたいの」
「ふーん。…で、毎回聞くけど遙の仕事って何?」
「………」

仕事。
"千本木遙"は、千年桜の分家妖怪の先祖返り。
千年桜オリジナルの妖怪は桜の姿をしていて永久に咲き続けている。
勿論、現在進行形で。
千年桜は悟の妖怪の先祖返りがいる悟ヶ原家が管理しているので、必然的に悟ヶ原家と千本木家は距離が近くなる。
悟ヶ原家は、先祖が妖怪と交わって栄える家の中でもトップに位置し、その先祖返りはボスのような存在。

そんな悟ヶ原家と距離の近い千本木家。
"千本木遙"は毎回、"霊殿"という役割を担っている。
その霊殿としての仕事内容が、今の電話。

「…霊殿」
「たまどの…。野ばらに聞いても、知ってる風なのに教えてくれねぇんだ」
「私だって、野ばらの副業知らない」
「あれは…」

お互い口をつぐむ。
言いたくない。
私の仕事なんて。
出来れば誰にも知られたくない。

「野ばらに、私が霊殿だって言ったの?」
「いや…。たまどのって何だ?って聞いただけ」
「そっか」

良かった。

「あんまり、話したくない内容」
「それは、分かってる。でも、一人で抱え込むなよ。他に一人くらい愚痴れる奴作れよ」
「でも…」
「お前が思紋様から電話があった日、太陽が沈んでからここを出て行くの知ってる」
「っ」
「次の日怪我してるのも知ってる」
「……」

バレてた。
こっそり出て行ってたつもりだし、怪我も上手く隠せてると思ってた。

「俺は鈍く出来てるから。吐き出したいなら、受け止めるから」
「連勝」
「溜め込むと、自分を滅ぼすぞ?」

ー 俺が聞くから。全部、お前が抱えてるもの。 ー
いつの記憶か分からない。
けれど、いつか分からない"私"の前にいるのは間違いなく"今"私の目の前にいる連勝。
いつか分からない"連勝"。

「…連勝は、変わらない」
「そうか?」

こうやって、きっと繰り返してる。
何代も前の"私"も、皆"連勝"と仲が良かったんだ。
ずっと霊殿の仕事を務めてこれたのも、"連勝"が支えてくれていたから。

「ありがとう」
「気にすんな」
「でも、もう少し自分の中で整理してから、がいい」
「…そっか」
「だから…」
「いい。話したくなったらで」

髪を撫でる連勝の手が優しい。
余計、私の仕事を伝えたくない。
霊殿なんて名前付けられてはいるけど、やってる事は所詮同族殺しなんだから。










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