黒木綿×桜 | ナノ


▼ 05

朝。
ラウンジに行ったら双熾がいた。
軽めの食事が乗ったお盆を持っている。

「双熾」
「遙。おはようございます」
「おはよ。それ、凛々蝶の?」
「ええ。疲れているようなので、本日は部屋でゆっくりされるそうです」
「そっか…」
「環境変わるとすぐ体調崩す奴だからなー。見といてやってくれよ」
「ええ」

双熾はぺこりと頭を下げてラウンジを出て行った。

「あれだな。遙の事は呼び捨てにしてるんだな」
「うん。お世話になってた時にね、駄々こねたの」
「成る程」

今日もバイトで、朝食を摂ってから妖館を出た。
15時には帰ってきて、テレビを見てごろごろ。
夕ご飯時になったのでラウンジへ向かう。
ラウンジには野ばらと髏々宮カルタがいた。

「野ばら。カルタ」
「はるちゃん…」

カルタがもふっと抱き付いて来た。
可愛いやつめ。

「はるちゃん…甘い匂いがする……」
「飴がポケットに入ってるけど?」
「欲しい……」

包装紙を剥いてカルタの口の中に放り込む。
幸せそうにもぐもぐと口を動かしながら、カルタは更に私に抱き付く。

「はるちゃん…好き……」
「ありがと。私もカルタ好きだよ」
「メニアック!!メニアックよ二人共!!そんな二人が私は大好きよ!!」
「鼻血出てんぞ」

ハァハァしてる野ばらに、連勝が静かにツッコんだ。
連勝の手にはいつの間にかカツ丼が。
私も夕ご飯食べよう。
何にしようかな…。

「ん?」
「あら…停電ね」

ぱちっと電気が消えた。
窓から外の闇が室内を侵食する。
暗い。

「動くな!!」

黒いトレーナー、色の濃いジーンズ、黒いキャップをかぶって銃を持った男が入ってきた。
ただの人間の。

「金を出せ。最高のセキュリティを誇るセレブマンションって聞いてたが、スカスカだぜ?」
「何だ。人間の強盗か。つまらない」
「なっ…」

ドンッ
上の方の階から銃声が響いた。
今ここにいないのは、凛々蝶と双熾だけ。
まぁ、双熾がいるなら大丈夫かな。

「ちょっと。私の遙ちゃんとカルタちゃんに銃を向けないでくれる?」

室温が一気に下がる。
冷気を纏った野ばら。
肩を出して胸元が大きく開いた白い着物、白いヴェールをかぶった野ばらは、本気でキレかけていた。
怖い怖い。

「ば、化物…っ!!よ、よ、よるな!!」
「化物ですって?失礼ね、あたし達はれっきとした人間よ。先祖に妖怪と交わった者が在て…その先祖返りなだけ。あたし達みたいなのは純血の妖怪に狙われやすいの。だから実家を出たら固まって暮らし助け合おうってこのマンションというシステムが作られたの。強盗ごときに化物扱いされたくないわよ。しかもムサい男だし。キャ○ツ・アイみたいな三姉妹とかにしてよ。せめて」
「レオタードなー」
「な…っ」

ご丁寧に野ばらが説明する。
いや、分からない分からない。

「な、何言ってんのか解んねんだよ!いいから大人しくしろぉ!」
「!」
「わお」

強盗が目を付けたのは、一番近くにいた私達。
しかも女子高生。
弱そう、とか思ったかな?
私達を抱えて、まるでドラマみたいに銃口を突き付けられた。
……仕方ないな。

「さ、桜…?何でこんな室内に……」
「私、千年桜の分家妖怪の先祖返りなの」
「なっ…!!」

バサ…

「私に……さわらないで…。はるちゃんから離れて……」

落ちたのはカルタが着ていたSSの制服。
現れたのは、巨大な骸骨。
雪女の野ばら、がしゃどくろのカルタ、千年桜の私と、妖怪を一気に見た強盗は気を失った。

「てか、千年桜って言われても誰も分かんないよねぇー…」
「そんな事ない…。はるちゃん、かっこいい……」
「自分がマイナー妖怪で落ち込む遙ちゃんメニアック!!」
「マイナーとか言うなよ、野ばら」

千年桜の妖怪の先祖返りならともかく、正確には千年桜の妖怪でもないし…。
何、千年桜の分家妖怪って。
何なの?
私にも分かんないんだもん、誰にも分かんないよっ。
マイナーだよマイナー。
雪女、がしゃどくろ、一反木綿、九狐、鬼。
有名所勢揃いなのに…。

「何言ってるのよ遙ちゃん!!マイナーだからこそのメニアックでしょう!?マイナーは、追及されたメニアックなのよ!!」
「はるちゃん…かっこいい……」
「うん。なんか、ありがと。二人共」

フォローとしては微妙だけど。
再びカルタがもふっと抱き付いて来た。





「いやー昨日はビビッたな!」
「ねー。まさか強盗が来るとは」
「怖かった…」
「うん、お前が」

ラウンジ。
皆勢揃いで朝ご飯を食べている。

「ですが凛々蝶さまに晴れて認めて頂く事ができ、僕には記念すべき日になりました…」
「ふん。仰仰しいな」

本当にびっくりした。
まさか強盗なんやかんやでこの二人の距離が縮まるとは。
一体何があったのやら。
気になる。

「ちょっと反ノ塚。これアンタの芯じゃないの?手間かけさせんじゃないわよもー」
「お、マジで!?サンキュー」

ドロン
連勝の姿が消えて、黒いペラペラとした布が代わりに現れた。

「やっぱコレが落ち着くわ。人間バージョンだと色々ちゃんとしなきゃじゃん?」
「君のどの辺りがちゃんとしていた?」

出掛ける時以外はジャージ。
髪はのびっぱなしのぼさぼさ。
確かに、ちゃんとはしていない。

「酷いなー。してるじゃんな?遙」
「そうだね。私が言わないとジャージで外出ていきそうになるけどね」
「ジャージは素晴らしい日本の文化だと、俺は思うんだ」
「そうだね」

連勝はペラペラとした部分を芯に巻き付けながら落ち込んでいた。
ちゃんとしてないから。

「反ノ塚さまは一反木綿だったのですね」
「何だ。同じマンションなのに知らなかったのか?」
「はい。僕は凛々蝶さまが入居された前日に入ったばかりですので」

再び凛々蝶と双熾の間で漫才のようなやり取りが繰り広げられる。
双熾の怖い所は、なんやかんやで自分のいい方向へ相手を誘導する所。

「遙。俺も遙の居る所に在るんだよ」
「私もだよ、連勝」
「だからっ!!君達は人をネタにするなと……っ!!」










to be continued.

prev / next

[ bunki ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -