▼ 04
「だから、私の仕事は同族殺し。私にSSがいないのも、私が妖怪に襲われやすいのも、霊殿だから」
「……」
「よく怪我するのも、そう。霊殿はいつも受け身だから」
凛々蝶もいるけれど、全部話した。
双熾はただ黙って聞いていた。
連勝も凛々蝶も、俯いて顔を上げない。
当の私は、話してる内に落ち着いてきた。
「色んな感情に精神を削られて、昔は仕事後、よく倒れてたんだ」
「…最初に遙が倒れた時、僕は本気で殺されると感じました。変化も安定していなくて、暴走状態…といいますか。視界がなくなるほどの桜吹雪は忘れません」
連勝も凛々蝶も、顔を上げて双熾を見た。
私も。
実は、詳しい話を双熾から聞くのは初めてだったりする。
私に気を遣って、簡単にしか話してくれなかったから。
「霊刀も霊水も、妖怪を"滅"する為の道具。半妖である僕達にも、致命傷にはなりませんがかなり効果はありました。僕達も堕ちた妖怪のように彼女に"滅"されると思いました。
僕が今ここで生きているのが証拠ですが、殺されはしませんでした。僕達は、男三人がかりで幼い遙相手に殺されそうになりながら…」
起きた時、部屋はぐちゃぐちゃだった。
双熾達もぼろぼろで、ふらふらで。
怖くて怖くて仕方なかった。
私がやったと聞いた時は、自分が恐ろしかった。
「それから何度か同じような事が起こりましたが、共に過ごす事によって僕達は遙の敵ではないと覚えて頂けたようで襲われなくなりました」
「…だから、たぶん、私は凛々蝶を……」
双熾達じゃなかったから。
理性のある内は、敵じゃない事は理解出来る。
精神が不安定で意識もなくて、『自らの命を守る』という本能しか残っていない時は…。
「カルタは大丈夫だった…?」
「ええ。すぐに離れて頂いたので」
「よかった…。凛々蝶、ごめん」
最近はこんな事なかったのに。
何かが可笑しい。
狂ってきている気がする。
この胸騒ぎは何だろう?
「気にしないでくれ。僕は気にしていない」
「…ありがとう」
ほっと息をつく。
凛々蝶を傷付けてなくてよかった。
「……」
「……」
黙ったままの連勝。
ベッドの横で胡座をかいて、俯いて微動だにしない。
怖い。
拒否されるかもしれない。
今までみたいに仲良く出来ないかもしれない。
それは嫌だ。
ああ、話さなければよかった…。
「……」
「……俺、」
ぎゅっと目を瞑って、連勝に否定される未来を見ないようにしていた。
急にかけられた声に、肩が跳ね上がる。
「お前がそんなに思い詰めてたの、知らなかった」
連勝の手が伸びる。
目を瞑った私の頬を撫でて、髪に触れる。
いつも、みたいに。
吃驚して目を開けたら、悲しそうに優しく微笑む連勝がいた。
「れん、しょ…」
「悪い。気付かなかった。お前、隠すの上手いな」
「れ…」
「ごめん」
引き寄せられて、連勝の腕の中に沈む。
あったかい。
熱いものが込み上げてくる。
泣きそ…。
「凄い近くにいるつもりだったのに。悪い」
「そんな…」
「これからは話せよ。もう隠す事ないだろ」
「でも、だって…」
「俺は殺されない。絶対死なない。怪我もしない。お前が倒れて暴れたら、俺は無傷でお前を止めてやるよ」
「……っ」
堪えきれずに、涙が溢れた。
ひとつ零れると、止まることなくぼろぼろ落ちる。
嗚咽を押し殺して、連勝の肩に目を押し付ける。
人前で泣くのなんていつぶりだろう。
いつも、泣く時は一人だったから。
「落ち着いたか?」
「…ん"」
酷い声。
「あれ。いねぇや」
「……とだ」
「お前、ほんとに声大丈夫か?」
「だ…ょぶ…」
「出てねぇって」
双熾と凛々蝶は、いなかった。
気、遣ってくれたのかな…。
「今日はここにいろよ。明日には声も治ってるだろ」
「……ん」
連勝は笑って、私の髪を撫でる。
ああ、よかった。
安心する…。
to be continued.
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