黒木綿×桜 | ナノ


▼ 01

『もう逢魔が時よ』

野ばらの言葉が脳内で反芻される。
逢魔が時。
陽と陰の交わる時間。
人間と妖怪の、交わる時間。

「私はあっち」

そう言った時の、双熾の顔。
全部分かった表情。
連勝にバレてないだけ、いいかな。
カルタはきっと大丈夫。
ちょっとした時間稼ぎのはずだから。

「…ここでいいかな?」

走って来たのは、神社。
だんだん暗くなるこの時間。
大抵の人達は闇に怯え、誰もいない。

ザワザワ

「………」

風が鳴る。
ああ、来た…。


一面に、桜が舞う。


アップした髪。
袂の大きな朱の着物。
漆黒の袴。
袴の紐には刀と瓢箪が下がっている。
霊刀と、瓢箪の中身は霊水。
どちらも霊殿として必要なもの。
変化した私は、腰の霊刀を抜く。

ギィンッ

「…天狗?」

現れたのは、三つの勾玉形をつけた小さな天狗。
私の腰くらいの身長、スピードは速いものの、力は弱い。
子供?
だとしたら、おかしい。
こんなチビが獲物なはず…。

「っ!思紋さまっ」

霊刀の峰で傷つけないようあしらいながらケータイを開く。
何かあった時にと、真っ先に出てくるよう設定した思紋さまの番号。

『どうした?』
「今夜の仕事は天狗っ!?」
『すばしっこい小さいものと聞いていたから鎌鼬だと思ったのだが…』
「っ!!子供!天狗の子供っ」
『何?』
「思紋さま、いいのっ!?これっ…っ」

頬にピリッとした痛み。
相手の持っていた榊に当てられたようだ。

『小さくてすばしっこく、霊殿を自分から襲うのだから間違いはないだろう』
「でもおかしくないっ!?」
『自分の役割を思い出すのじゃ、千本木遙』
「っ」

霊刀で天狗の子供を斬り付けて、その傷口に霊水をかける。
天狗の子供は、消えた。

『終わったか?』
「…うん」
『ご苦労』

おかしい。
本当に今の選択は当っていた?
おかしい。
何か大事なものを見落としてない?
おかしい。
誰かいる。
ニヤニヤと笑う、誰か。
この状況を作り出し、思い通りに駒を進めて、けたけた笑う黒幕。

ピリリリ

「っ!?」

ケータイ。
まだ変化したままというのを思い出し、変化を解く。
ディスプレイには『連勝』の文字。

「はい」
『大丈夫かー?カルタ、帰ってきてたってよ』
「ん。分かった」

ケータイをしまって歩き出す。
ああ、酷く気分が悪い。
早く帰りたい。
早く…。





「遙?」
「ん?」
「…怪我してる」

連勝の手が頬に触れる。
暖かい。
その温もりに、思わず肩が震えた。

「もしかして」
「うん。…あのね、連勝。後で話があるの」

聞いてくれる?
上目に見上げれば、連勝はいつもみたいににかっと笑った。
安心した。
連勝の笑顔を見るだけで。
連勝が髪を撫でてくれるだけで。
さっきまでの恐気が消えた。
消してしまっていいものなのかは、分からないけれど。










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