▼ 05
「あ。凛々蝶、双熾、ちょっと待ってて」
「ん?別に構わないが…」
「おつかい買って来るね〜」
「付き合うぞ?」
「大丈夫大丈夫!!さ、連勝行こっ」
「おー」
着いて来ると言わせないように、さっさと連勝の背中を押して退散する。
よし。
「ケーキかぁ。どんなんがいいかなぁ?」
「そうだなー…」
ケーキ屋さんの前。
ショーウィンドウの中には、色んなケーキが並んでいた。
今時のはどれもキラキラでカラフル。
「これは?」
「あ、可愛い!!こっちはどう?」
「おー。凛々蝶好きそうだな。御狐神サンは?」
「凛々蝶」
「……おー」
そうだ。
いっそ凛々蝶に生クリームしぼってしまえばいいんじゃ?
welcomeって書いて双熾に差し出せば、きっと双熾は喜ぶ。
「eat meってのもいいかもね」
「ぶっ!!いやいや、凛々蝶恥ずかしがり屋だから無理だろ」
結局、何のひねりもないショートケーキ。
特大。
あんまり小さいと全部カルタに取られちゃうからね。
「よっしゃ。行くか」
「うん」
連勝がケーキの箱を持つ。
……に、似合わない。
「悪りー悪りー。待った?」
双熾はにこにこ笑いながら凛々蝶の肩もみをしていた。
「ケーキ?…何か今日はらしくないな」
「何で。俺とケーキ。超しっくり」
「君とカップ麺なら何の疑問も持たないが。隣に千本木さんがいなければ、君は可哀想な男にしか見えないからな」
その通り。
その通りだよ凛々蝶。
連勝が一人でケーキの箱、って…。
何か怖い。
だって893がケーキ持ってたら誰でも怖いでしょ!?
「…誉の変化時くらい」
「ええっ!??」
ぽそっと呟いた私の言葉はどうやら連勝に届いてしまったようだ。
世の中、聞かない方がいい事もある。
連勝は肩を落としていた。
「お二人は仲がよろしいのですね」
双熾が連勝と凛々蝶を見て言った。
私も双熾側に立ってそうだそうだと茶化す。
「は?君達の目は節穴か」
「まーな。付き合い長いし。まー俺は凛々蝶にとってお兄さんみたいなもんかな」
「ただの近所のな」
「こいつ周りに敵作りまくりじゃん。ついつい頼れるお兄サンやっちゃうみたいな?」
「近所の、ただの、な」
「お兄様って呼んでいーぜ」
「凛々蝶さまのお兄さまのような方でしたら是非そのように…」
「呼ばんでいい」
親指を立てる連勝に、恭しく頭を下げる双熾。
双熾のが年上なのに。
いや、まぁ見た目的には双熾のが若く見えるけど。
「それより、僕は君達の関係も知りたい!!」
「僕達ですか?」
「そうだ!君は僕の事は色々聞いてくるくせに、自分の事は何一つ話そうとしない!不公平だ!」
びしっと音が付きそうな勢いで双熾を指差す凛々蝶。
かわいい。
典型的なツンデレだ。
かわいい。
「僕達も、凛々蝶さまとお兄さまの関係のようなものです」
「千本木家は他の先祖返りの家と少し違ってね。先祖返りの子供はさっさと他の先祖返りの家に預けちゃうのが恒例なの」
「たまたま遙が預けられた家の先祖返りの方に僕が奉仕していたので、昔馴染みなのです」
「それこそ頼れるお兄さんみたいな感じかな?」
「ありがとうございます」
双熾は相変わらずこんなんだけど、凛々蝶程ではないけど色々と可愛がってくれていた。
今も、たぶん変わってないだろう。
「さて!凛々蝶、後は何が残ってる?」
「後はケータイだけだ」
凛々蝶の手を取ってケータイショップまで歩いた。
色んな話をしながら。
とりあえず分かったのは、凛々蝶が可愛い事。
「…お兄さま」
「おー」
「幸せです」
「早まるなよ」
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