07短編 | ナノ


▼ 01

「ん…」

顔に当たる日の光で目が覚めた。
か、体がギシギシいってる…。
そうだ。
床で寝たんだ、当然か…。
昨日は遅くまで騒いでたし、沢山お酒飲んだから、まだ皆寝ている。
私も、まだ頭はぼーっとするし寝たいけど、もう習慣。

「…どうしよう」

幸せそうに眠る少佐を見て、呟く。
昨日は少佐の誕生日だった。
皆でプレゼントを買って、渡したら喜んでいた。
新しいサングラスと、手料理。

「結局渡せなかった…」

私は個人でプレゼント用意していた。
ポケットの中を探ると、カサリと音がして指先が紙袋に触れた。

「はぁ…」
「もう起きたのか、早いな」
「おはようございます、アヤナミ様」

一人座ってうなだれていたら、アヤナミ様が執務室に入って来た。
普段から睡眠時間少ない方だし、私よりもっと早く起きてたのだろう。

「私、準備して来ます」
「今日は仕事は少ないから、あまり焦らなくて大丈夫だぞ」
「はい」

軍服は皺ついてるし、昨日お風呂入ってないし…。
私は皆を起こさないように、そっと執務室を出た。





「あ、おはようななし」
「おはようございます、少佐」

執務室に戻ると、もう皆起きていた。

「ふゎ…。用意してくるよ……」

少佐が大きな欠伸をして執務室を出て行く。
ああ、渡せなかった。





二時間後。

「アイツが素直に『用意』と言った事を疑うべきだった…!!」

少佐が帰ってきません。
きっとあのままバックレたと思いますよ?
コナツさんが部屋を見に行ったけれど、もういなかった。

「僕、探してきます」
「私が行きます!」

チャンスだ。
ここで少佐を探して…。

「あのほら、いつもコナツさんばかり迷惑かけているので今日くらいは私が……!!」
「……じゃあ、お願いします」
「はいっ」

ポケットにプレゼントが入っているか確認して、執務室を飛び出した。
けれど、すぐ後悔した。
少佐がどこにいるのか、まったく分からない。
せめてコナツさんに少し話を聞いてから行けばよかった。
要塞内を探し回って、手当たり次第人に聞いて、見つからなかった。
というより目撃情報がまったくなかった。

「街…かなぁ」

コナツさんが少佐の隠れていた場所をアヤナミ様に報告する時、時折"街"にいたと聞く。
もしかしたら……。

「お願い。少佐、どこ…」

要塞を出て、繁華街を歩く。
少佐の姿を探しながら。

「軍人で、黒髪で目が赤くて耳掛けのないサングラス嵌めた男の人見てませんか??」
「黒髪の軍人…?いや、見てないけどなぁ」
「そうですか…。ありがとうございます」

ここでも目撃情報がない。
なんで…。

「少佐ぁーっ!!」

恥も承知で、道の真ん中で叫ぶ。
こうでもしないと聞こえない。
昨日渡せなかったんだから、今日こそは。

「少佐ぁ!!渡したい物があるんですっ!!出てきて…っ!!」

渡したい物だけじゃない。
伝えたい気持ちもある。
少佐…。
繁華街を走り回って、少佐の姿を探す。

汗で前髪が額に張り付いて気持ち悪い。
軍服の中だって、カッターシャツだって、きっと汗で酷い事になってる。
さっきシャワー浴びたばかりなのに。
叫びながら走ってる所為で、肺が痛い。
酸素が上手く体に行き渡らず、息も荒いし足が震える。

何に焦っているのか分からない。
こんな一生懸命に探さなくたって、少佐はきっと、その内ひょっこり執務室に戻ってくる。
その時渡せばいい。
気持ちだって、その時伝えればいいのに。
分からない。
分からないけど、今探さないといけない気がする。
もう少佐に逢えない気がして…。

「っ、少佐ぁ!!」

もう駄目だ。
普段ならこれくらいの運動量どうって事はないのに。
妙な緊張が体力を奪う。
もう駄目だ…。
目眩もして来て、倒れるように座り込んだ。
いつの間にか繁華街を抜けて河原を走っていたらしい。
隣には川。
震える足を無理矢理動かして、橋の下の影に移動した。
今度こそ動けない。
草の上に倒れ込んだら、青い匂いがした。

「ふぇっ……」

荒い息はなかなか整わなくて、いつまでも過呼吸みたいに酸素が吸えない。
理由は分からないけれど、涙も出てきたから余計に苦しい。
胸が痛い。
もうどうして痛いのか分からない。
少佐に会えないから??

「っななし!!」

暫くそうして倒れていたら、その内呼吸は収まってきた。
涙は止まらないままだけれど。

「ななし!??」

はは。
私、本格的にヤバい。
少佐の声が聞こえる。
幻聴…?

「ななしっ!!」

横向に倒れていたけれど、声は背中の方から聞こえた。
そして、足音。
背中の方、隣に誰かが膝を付いて、私を覗き込んでる気配。

「ななし!!ななし!??」
「っ…しょう、さ??」
「ななし!!」

その人は、荒い呼吸のまま私を呼んだ。
奇しくも、少佐を探していた時の私みたいに。

「少佐……しょうさぁ……」
「ななし!??」
「しょうっ…さ、ぁっ……」

手を貸してもらって、起き上がる。
走って熱を持った筋肉を、倒れて固まったまま冷やしてしまったから凄く痛い。
色んな"痛み"が一気に来て、涙の量が増した。

「少佐ぁっ」
「ごめん…。俺を探しててくれたんだよね?」

堪えられずに、少佐の胸に顔をうずめる。
少佐の鼓動がやけに早い。
そういえば、落ち着いてきているけど息も荒かったし、体温も高いし、顔は汗でびっしょり。
赤い瞳はさっきまでの必死な色を潜めて、安堵の色に変わった。

「ごめん。入れ違いだったみたいでさ…」
「ふぇ?」
「ななしが出て行ってすぐくらいに執務室に戻ったらしいんだ」

じゃあ、私の苦労って…。

「ごめん」

少佐はただ謝ると、私を抱き締めた。

「少佐…これ、誕生日プレゼント……」
「え?でも、昨日…」
「あれは、皆で。私からの、分です」

ポケットの紙袋はもうくしゃくしゃになっていて。
せっかくのプレゼントなのに。

「…開けていい?」
「はい」

少佐は、私を抱き締めたまま、紙袋を開ける。
背後から袋を開けるカサカサという音が聞こえてきた。

「これ…」
「刀の下緒です。少佐、色がくすんできたから新しいの欲しいって言ってたから…」
「こんなの高かったでしょ?」
「そんな事ないです。少佐の為、なら…」

言え。
言うんだ。
何の為に走っていたのか、意味がなくなる。

「少佐、あの…」
「ん?」
「私、少佐が……」









プレゼントは、
(好きです)
(…俺も)









Happy birthday!!

prev / next

[ bunki ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -