07短編 | ナノ


▼ 01

今日は7月8日。
昨日は七夕。
高校生とは思えない浮かれっぷりで一日はじけていたヒュウガ。
今日、は…。

「ん?どしたの、ななし」
「何でもない」

登校するのに、私の家の前で待っていてくれた時も、
学校に向かってる今も、
ずっとケータイをいじっている。
いつもそんなにいじらないのに。
時折バイブの音がするから、メールでもしているんだろうか。
それにしては長くない?

「誰にメールしてんの?」
「えっと…バイトの先輩」
「アヤたんって人?」
「そうそう。ななし、俺今日バイトぎっしりだから一緒に帰れないや」
「え、そうなの!?」

誕生日、なのに。
今日はヒュウガの誕生日なのに。
お祝いしようかな、って。
もうそんな歳じゃないと思うけど、誕生日パーティーみたいな事しようと思ってて…。

「そう…なんだ」
「え?ごめん、何かあった?」

何かあった?って。
あんたの事じゃん。
ケーキとか予約までしちゃって、私、馬鹿みたい。

「何でもないよ」
「………そっか」

あー、恥ずかし。
あのケーキどうしようかな?
当日にキャンセルとか出来ないでしょ。

「バイトって、何時まで?」
「えっと…。22時」

無理じゃん、それ。
明日も学校あるし。

「そんなバイトして、何か欲しいものあるの?」
「うん。今日頑張れば給料弾んでくれるって言っててさ」
「何が欲しいの?」
「ななしにはないしょー」

楽しそうに言うヒュウガ。
あーあ。
なんか、自分がすごく惨めに見えた。
ヒュウガ、誕生日忘れてる?



教室に着いて、自分の席に座る。
…………。
はぁ。
今日は、どの授業も身が入らなかった。





部屋に入って、ベッドに倒れ込んだ。
なんかヒュウガに避けられてる気がした。
本当にさっさと帰っちゃったし。

「ばーか」

さっきから、ケータイのアドレス帳のヒュウガのページを開いてぼやいてる。
ベッド脇のテーブルにはバースデーケーキ。
ヒュウガの。
高校生だけど、ガキだし、喜ぶと思った。
お誕生日おめでとう、なんてチョコの板まで乗せてもらっちゃって。
ああ、恥ずかしい。

「………」





『誕生日おめでと』





絵文字も何もない素っ気ない文章。
ヒュウガのメールみたい。
移ったかな、絵文字使わない癖。
送信ボタンを押して、届くまでの様子を見る。
送信完了の四文字が画面に現れてやっと息をつく。

「流石にまだバイト始まってないでしょ」

それに。
普段返信しないヒュウガでも、今日のこのメールくらいは返信くれるでしょ。
はぁ…。



一時間待っても来ない。
普通返すでしょ!
それともあの時すでにバイト始まってたとか!??

「昨日告っちゃえばよかったかも」

勢いで。
もう終わったし。
好き、なんだけどなぁ…。
登下校一緒だし、オヤスミメールくれるし、なんとなく、他の人よりは近いと思ってた。
なんていうか…。
友達以上恋人未満的な?

「はぁ…」

本日何度目か分からないため息をついて、ケータイの画面を見る。
そこには何故か送信中の文字。
え?





『好き』





「わああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

慌てて中止ボタンを押すけど、タッチの差で送信完了。
や、やってしまった……。
告白とか、口で言いたいタイプなのに私。
メールとか……。

「うわぁー」

明日学校行きたくない。
休みたい。
もう穴掘って入って寝ていたい。
冬まで。
冬眠じゃなくて夏眠みたいな。


ケータイを放り出してシーツを体に巻き付けて現実逃避するように目を閉じる。
もう嫌だ。

「ななしー。彼氏よー」

お母さんの声。
……は?
いやいやいや。
私に彼氏とかいないし。
は?
シーツ蓑虫から人間に戻って、とりあえず制服の乱れを直す。
くしゃくしゃだし。

「誰ー?私に彼氏とかいないけど」

言いながら玄関に向かうと、そこには。

「よっ!」

ヒュウガ。
え、は?

「あんたこんなかっこいい彼氏がいたならなんで母さんに紹介してくれないのよーっ!」
「それはほら、お母さん綺麗だから取られたくなかったんですよ」
「まぁお世辞も上手!こんな娘でよかったら末永くよろしくねぇ!!」
「こちらこそ!!もうあと数年したら息子になるので!!」
「こんなかっこいい息子?嬉しいわねー。息子が欲しかったのよ!!」

なんだか仲良く盛り上がってる。
え…。
待って待って。
なんか、彼氏ってお母さんの勘違いじゃなくてヒュウガが自分から言った…ぽい。
は??

「ちょ、ちょっと待て。ヒュウガ、アンタいつから私の彼氏になったのよ」
「え?」

きょとんとされた。

「もしかしてメール見てない?俺もななしの事ずっと好きだったって返信したけど」
「嘘!!」

ニヤニヤしてるお母さんが鬱陶しくてヒュウガの手を引いて部屋に駆け込んで扉を閉める。
だー…。

「ななし、これ」
「何よ!!」

半ばキレながら振り返ると、テーブルのケーキを見つめるヒュウガ。
そこにはもちろんお誕生日おめでとうのチョコが。
わー…。

「もう嫌だあああ!!!!」
「えぇ!?何どうしたの!??」

一回言葉にしたら、止まらなくなった。
涙まで一緒に出てきて。
止めたいのにどっちも止まらない。
言葉も涙も。

「だってーっ!!あのメールだって送るつもりはなかったしこのケーキだって一人でやけ食いしてやろうと思ってたしヒュウガはバイトって言ってんのに私の前にいるし!!」
「…このケーキって、さ。もしかして」
「そうだよ!!ヒュウガのバースデーケーキ!!!!こんなの用意するなんて引くでしょ自分でも引いてるもん!!正直キモいよ私!!」

何言ってんだろ私。
自分でバースデーケーキだってバラしたし。
あーもう最悪。

「引かない。キモくない。ていうか、むしろ今ななしがかわいくて仕方ないんだけど。キスしていい?」
「やだキモいヒュウガ!!」
「え、キモいの!??」

堰が切れたみたいに、一気に気持ちとかが流れ出る。

「キモくない!!だってずっとヒュウガの事好きで誕生日お祝いしようとしてたのに!!ていうかバイトって言ってたじゃんー!!」
「バイト全部ブッチした」
「馬鹿じゃないの!??」
「だって、ななしからあんな、ずっと欲しかったメールが来たんだよ?」

ボロボロ泣く私の涙を拭って、ヒュウガは笑った。

「俺もずっと好きだった」

だんだんヒュウガの顔が近付く。
ゆっくりと目を閉じる途中に、



ドアの隙間からニヤニヤ見つめる母親の顔が見えた。



「何で見てんのよおおおおお!!」

お母さんの顔をドアで挟んでやるつもりで蹴っ飛ばしたら、上手に避けやがった。
ちっ…。

「あら、キスしないの?ななしちゃんのファーストキスをばっちり見届けてお父さんに伝えてあげようと思ったのに」
「ほんっとそういうのやめて!!お願いだからやめて!!!!」
「えーいいじゃんキスくらい。減るもんじゃないし」
「減るの!私の心の何かが減るの!!」
「分かった。ファーストキスは二人きりがいいんだよね。じゃあお母さん、キス見せるのは次ここに来たときで」
「そう?ヒュウガ君に言われたら仕方ないわね…」
「もう嫌ぁぁあああああ!!」

平然と娘のファーストキス見ようとする母親も、見せる事に抵抗覚えないヒュウガも。

「それに…」
「?」
「キスした後の恥ずかしがるななしは俺だけの表情だし。親にも見せらんないねこれだけは」
「ばっ……!!」

気付けばもうお母さんはいなくて。
でもなんかそういう雰囲気でもなくなったから、ケーキを見る。
いつの間にか置かれていたお盆に二人分のお皿とフォーク、ジュースがあった。
お母さん、デリカシーはないけど気は利くんだよね…。
ケーキを取り分けようとして、

「ヒュウガ、ろうそくやる?」
「いや、それは流石に……」
「だよね」

小さめのホールケーキ。
切り分けて、ヒュウガに渡す。

「ありがとう、ななし」
「ん///」

あまりに優しい表情で笑うから、見てられなくて顔を逸らす。
いただきます、と手を合わせてケーキを食べ始めた。

「あ、美味しい!!」
「でしょ?ここのケーキすごい好きなの」
「来年は手作りね」
「別れなければね」
「そんな事させないよ?」
「ははっ。怖いよー束縛しそう」
「違う違う。ななしに嫌われる事はしない」

美味しそうにケーキを頬張るヒュウガ。
買ってよかった。

「クリーム付いてる。自分の歳言ってみなよ、恥ずかしい」
「3歳です!!」
「わー…」
「あ、ねえぺろってしてyごめんなさい調子に乗りました」

私が無言でケーキを切り分けたナイフを持ったら速攻で謝った。
馬鹿だな、ほんとに。
私もヒュウガも。

「??」
「っ///」

驚くヒュウガの口元のクリームを舐めとる。
うわぁ恥ずかしい!!!!

「…ななし?」
「っううううるさい!!///こっ、こっち見るな馬鹿!!!!///」

たぶん、耳まで赤い。
すごく熱いもん。

「あ゙ーもーほんっとかわいいほんっと好き!!」
「ぎゃあっ!!」

急に抱きつかれて、そのまま抱きくるめられる。
ちょ、ちょちょちょちょちょっ///
今まで意識した事はなかったけど…。
ヒュウガは"男の人"で。
細いように見えたけどしっかりしてる。
駄目だ。
たぶんこれ、私死ぬ。
心臓がはちきれる。

「ななし、好き」

耳元で囁かれた声は低くて、甘くて。
耳から伝わった電流が体中を一瞬で駆け巡る。

「私だって、ヒュウガが、好き、だって…//何回言わせりゃ気が済むのよ…!!///」
「何回聞いても気は済まない。だって、本当に好きなんだよ」

そうっと、手をヒュウガの背に回す。
こう…だよね?

「……ななし」
「ん?」
「好き」
「私も」

顔が近付いて、今度こそ、









繋がらない、繋がる?
(せっかく恋人になったんだから)
(メール返信してよね)









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