ペア(後編)

とりあえず彼女を落ち着かせるため、背中をなでながらゆっくりと居間まで誘導した。

「・・・で、落ち着いた?  それともまだ寝ぼけてるんですか、直さん?」

「寝ぼけてなんかないです!! 秋山さんの浮気者!」

どうやらまだ寝ぼけているようだ。

彼女がこんなにもストレートに気持ちをぶつけてくるのは酔ってるか寝ぼけているか、そのどちらかだ。

しかし、そうなると「浮気者」というのは彼女の本心から出た言葉ということになる。


「・・・オレがいつ浮気なんかしたんだ?」

だいたい、それに準ずる行為も発言もした覚えがない。

頭をフル回転させても秋山には答えが導けなかった。

「・・・ッ、秋山さんのバカっっ!!」

「ぐふっ」

秋山の言葉に我慢ならなかったのか、直はビーズクッションを掴むと彼目掛けて思い切り投げた。

完全に油断していた秋山は彼女の攻撃を顔にモロにくらうこととなった。

「このクッションも、お揃いのお茶碗もそのお布団も、みんなみんな他の女の人のために買ったもののくせに!!」

「・・・は?」


他の女・・・?


「ま、待て。キミの話から察するに、他の女の人ってのはオレの浮気相手のことだよな?」

散々自分の口で言ったくせに本人に言われると傷ついたのか、秋山の口から「浮気相手」というフレーズがでた瞬間、今にも抱きしめて慰めてやりたいと思うくらい、直はすごく悲しそうな表情をした。

「いや、浮気なんてしてないから落ち着け

一瞬ほっとした表情を見せた直だったが、信用しきれないのか、ぷいっとそっぽを向いた。



「・・・きっときっと、秋山さんは私が会いに来れない間、他の女の人とあのお茶碗でご飯食べたり、あのクッションで一緒にくつろいだり・・・・・・お、お布団で一緒に寝たりしたんです///」


・・・オレがそれを一緒にしたいのは全部、キミなんだ。


「きっとその人は頭が良くて背が高くてスタイルがよくて・・・胸がおっきくて、美人な人なんです」


世界中どこを探しだってキミ以上なんて、いるわけないのに。


「秋山さんはその人が好きでその人とずっと一緒に・・・」

「そんなわけないだろ、馬鹿」

秋山はゆっくりと直に近づき、優しく抱きしめた。

「そんなわけ、なくないです。きっと、で、デートの時とかに、秋山さんがその人のために買ってあげたんです」


・・・そういえば、彼女とデートらしいデートなんて、したことがなかったなぁ・・・


「・・・全部、キミのためにオレが買ってきたんだけど」

「・・・嘘ですね」

「なんで、そう思うの?」

「秋山さんが、そんな女々しいことするわけないですもん」


女々しいって・・・


「はぁ、つらいもんだな。キミが前に言ってたことの意味がよくわかったよ」

「・・・?」

「『好き』がなかなか伝わらなくて、つらいってさ」

「・・・!」

なにが・・・? と言いたげだった直の瞳は秋山の言葉を聞くと大きく見開かれた。



2人が付き合うことになった時、彼女が言っていたのだ。
なかなか『好き』が伝わらなくてつらかった、と。

本当は直の気持ちにも、自分の本当の気持ちにも気づいていた秋山だったが、彼女の将来のことを案じるあまり、気づかないフリをしていたのだ。

あの時はその言葉の意味を深く考えもせず、彼女の想いの暖かさにただただ喜びを感じていた秋山だったが、ようやくわかった。

オレはどれだけ彼女に寂しい思いを、つらい思いをさせてきたんだろう。


直はこんなオレを想って、ずっと・・・



「直、キミの想いに負けないくらい、オレはキミのことが好きなんだ」

秋山の言葉に真っ赤になった直は、彼からゆっくり離れると少し離れた場所に背を向けて腰を下ろした。

顔を見られないように隠しているつもりらしいが、さらさらとした髪からのぞく耳は今もなお赤く、照れを隠しきれていなかった。

秋山が後ろから抱きしめると、一瞬ピクッとした直だったが、しばらくすると彼女の腰に回された彼の手に自らの手をそっと重ねた。

「・・・信じてくれた?」

「・・・まだ疑ってますよ」

「・・・なかなかの頑固者だな」

「・・・だって」

「?」

直の手が秋山の手をきゅっと握った。

「お揃いとか・・・そういうので嬉しいのは、私だけかなって思ってたから・・・」

秋山は直の手をぎゅっと握り返した。


「・・・なぁ、まだ先になるけど、もう1個お揃いで買いたいものがあるんだけど、いい?」

「? なんですか?」

後ろの秋山の顔を見ようと直が体をよじる。

「さぁ、なんでしょう?」

「えぇ〜? なんだろう」

直は人差し指を口元に当て、考え始めた。
なかなかいい答えが見つからないらしく、時々うーん、とうなっている。

「じゃあ、ヒントをあげようか。ヒントは薬指にはめるものです。」

「うーん、薬指・・・!?」

秋山の言葉の真意にたどり着いた直の体中は一瞬で熱を持った。

「え、そ、それって・・・///」

「まあ、それ買いに行く時は一緒に来てね。オレ、サイズとかあんまり詳しくないからキミに合わないと悪いし」

「は、はははいぃっっ///」





同じ輪っかは、絆の証。




実に半年ぶりの新作小説でした^^;

おかしいな、ネタは豊富にあるのに・・・

やっぱり時間ですね

いくらネタがあっても頭の中のものをまとめなきゃいけないのでどうしてもローペース更新に・・・orz

小説の方が需要があるようなので、ちょっとした小話みたいなのを載せるのもいいかもなぁ(*´∪`*)


さて、今回の「ペア」は秋山さんの浮気を疑っちゃう直ちゃんのお話でしたw

もともとのネタは、直ちゃんのために色々なものを買っちゃう女々しい秋山さんが書きたかっただけのお話だったんですが、やっぱり他者に「女々しい」と一蹴されてちょっとヘコむ彼もどうかな? と思い、浮気という要素も付け加えてみました。

そうしたら当初自分が考えていた以上に直ちゃんを動かすことができたので良かったです^^w

前後編に別れた分長くなってしまいましたが、ご好読ありがとうございました!(^^ゞ

2011.6.18

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