でかプリン

「秋山さん! 付き合ってください!!」

「・・・どこに?」

興奮気味の直は、秋山に1枚のチラシを見せた。

「ほら! ここのスーパーで今日玉子が特売なんです! 1人2パックまでしか買えないので協力してください!」
「・・・はぁ」

やっぱりね、こういう事だろうと思ってたけどね・・・

・・・別に期待なんかしてなかったけどね。



秋山は直に引っ張られるままにスーパーに来ていた。
そのスーパーは普段から激安の店として有名なのだが、今日は月に1度の'大特の市'で、いつも以上にお得に買い物ができるらしい(直談)。

「やっぱり'大特の市'だけあって混んでますね」
大特売ということもあってか、店内は客でごった返していた。
人の多さに秋山はげんなりしたが、普段、奥ゆかしく控えめな直からのめったにないお願いということもあり、我慢して彼女について行くことにした。


「え〜、今日の目玉商品。玉子がおひとりさま2パック限定、1パック20円、1パック20円です」
店内アナウンスと共に主婦達は玉子売り場へ雪崩ていく。直は後ろにいる秋山の袖を掴んで、大多数の主婦達とは異なる道を進んでいく。
「お、おい、みんな向こうに行ってるけど・・・」
「普通に行ったらもう間に合いません! 遠回りした方が近道です!」

・・・急がば回れ、か。

直の言うとおり、最短ルートから来た主婦達は道に押し合いへし合いしていて出遅れたようである。
彼女の機転で2人はちゃんと2パックずつ確保する事に成功した。



「ところでこんなに玉子買ってどうするんだ?」
帰り道、2人でスーパー袋を1つずつ持ちながら歩いていると、秋山が尋ねた。
「ふふふ、なんだと思いますか?」
彼女はご機嫌そうに尋ね返す。
「・・・オムライス?」
「ぶっぶ〜、ハズレです! 正解はバケツプリンでした!」
て言ってもバケツじゃなくて大きなボウルなんですけどね、と彼女は下手したら玉子がどこかに当たって割れてしまうくらいブンブンと大きくスーパー袋を揺らしていた。
「・・・そんなにプリン食べたかったんだ?」
秋山が呆れ気味に言うと、あんなに嬉しそうにしていた直が立ち止まり、悲しい顔をした。
「・・・そうじゃないんです」



母親を早くに亡くした直は自然と独学で料理を身につけていった。
今まではその料理を大好きな父親に振る舞うことができたが、男手1つで彼女を養うために働いてきた彼もついに病に伏せてしまった。
ガンに冒され治療をしている彼に手料理を食べてもらうことは、病院の栄養管理の面で難しくなった。
彼女は1人で食事をすることが増えた。
もちろん、学校に行けば一緒にランチをする友達がいる。でも、家に帰れば1人だ。自分が作ったものを自分1人で消費する毎日。
彼女は美味しいと笑ってくれる他人の温もりに飢えていた。

彼女はどんな小さな祝い事でも、その人に対して手作りのお菓子などを振る舞うようになった。
お菓子をプレゼントすれば、次に会ったとき「ありがとう、おいしかった」と言ってもらえるし、運がいいとその場で食べてくれて直接リアクションが見れる。
彼女は特殊な意味で周りに敏感になっていった。

出会って間もない頃なのに彼女が秋山や他のライアーゲームメンバーにしきりに誕生日などの祝いの日を聞いたりしていたのはこの為だった。

・・・最近読んでいた心理学の長い論文を読み終わった、と何気に話した翌日に直が大きなホールケーキを持ってきたのは、この為だったのだ。



秋山は読書をするふりをしながら時々直の様子を窺う。
直は少し悲しそうにプリンの生地を混ぜ、大きなボウルにすべて注いでいった。
なんとかボウルを冷蔵庫に収めると、彼女は秋山がいるテーブルの向かいに腰を下ろした。
秋山はなんと声をかけたらいいのかわからず、ただただ黙っていた。
直はしばらくそのままだったが、1つため息をつくとテーブルに突っ伏して眠ってしまった。



「・・・ん」
直が目覚めるとそこには眠る前と変わらない世界があった。
自分の家、自分の部屋、お気に入りのテーブル。
変わったところをしいて挙げるとすれば、夕方の訪れと共に部屋が薄暗くなっていて、そんな中で秋山が変わらず本を読んでいることぐらいだろうか。
直は起きると部屋の電気を付けて秋山に声をかけた。
「もう、暗いところで本読んでると目が悪くなっちゃいますよ」
秋山は直の声に顔を挙げると、ただじっと彼女の瞳を見つめた。
「・・・っ、プリンそろそろできたかな? 私、見てきますね」
耐えきれなくなった直は秋山から逃れるように台所に向かった。

プリンが固まっているのを確認すると、直はそれを型からとるために端を箸でぐるんと1周し、大きな皿にうつした。
ぷるんと震えるプリンに温めておいたカラメルソースをかけると、彼女は慎重に運んでそれを秋山の前に置いた。

「・・・どうぞ」
そう言ってスプーンを差し出す直。
口調は勧めるものだが、彼女の瞳からは強い意志が窺えた。
秋山はスプーンを受け取るとプリンを一口食べた。
「・・・どうですか?」
不安そうな彼女に秋山は素直に思ったこと、思っていたことを告げる。
「・・・おいしいよ」
それを聞いた直はホッと安堵した。
「本当においしい。前に作ってくれたケーキとかクッキーもそうだけど、キミの料理はなんでもすごくおいしいから、誰でも自然と笑顔になる。これからも、キミの手料理が食べられたら嬉しいと思う。出来るだけ夕飯は君の家にくるよ。一緒に食べるから・・・一緒だから、泣くな」
「・・・は、い・・・ありがとう、ございます・・・っ」
秋山は彼女の涙を指で優しくぬぐった。


「秋山さん、私が質問した時、オムライスって言ってましたよね?」
「うん」
「オムライス、好きですか?」
「うん、オムライスもハンバーグもカレーもシチューも好き」
「・・・ふふふ、作り甲斐がありますね」

ようやく笑った彼女を秋山は大切に抱きしめた。



ちょっとシリアス風味の秋直です。

私はバケツプリンを作ったことないので、プリンを型からとる方法がわからないんですが・・・箸でぐるんてやるんですかね(^^;)

私は1人で食べるの好きですが、さすがにずっと1人は寂しいですよね。
直ちゃんみたいないい子は余計そうなんじゃないかな。
(´・ω・`)

これからは秋山さんが一緒だからね(*⌒▽⌒*)

実はもう1つ食べ物ネタで書きたいものが・・・(また食べ物かよっw(´_ゝ`))
今度は夫婦バージョンで。
o(^o^)o

もっと普通のネタで秋直書けるようになりたい!!(≧∀≦)

2010.12.15

2011.1.21 編集

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